社説:処理水放出1カ月 水産物輸出の影響抑えねば
京都新聞 / 2023年9月26日 16時0分
東京電力が福島第1原発で処理水の海洋放出を始めて、1カ月がたった。
初回分の約7800トンの放出で設備トラブルや周辺の海水、魚に放射性トリチウム濃度の異常はないとし、今週にも2回目を始める。
福島県沖で取れた魚介類に風評被害による価格低下はみられないといい、地元で一定の安堵(あんど)の声が聞かれている。
一方、中国は反発して放出開始から日本産水産物の輸入を全面停止したままだ。最大の輸出先が途絶し、水産業者への打撃が広がっている。
漁業者らが放出に反対を続ける中、「全責任を持つ」と押し切った岸田文雄政権である。影響が長期化しないよう、丁寧な事業者支援とともに、輸入制限撤廃に向けた外交努力を尽くさねばならない。
初回の放出は8月24日-9月11日に行われ、東電や環境省、水産庁、福島県がそれぞれ公表した海水や魚の分析結果は、いずれも問題なしとされた。
だが、中国政府は「核汚染水」と呼び続け、水産物の輸入停止を従来の福島など10都県から、日本全国へ拡大した。
日本からの水産物輸出で、中国向けは昨年に871億円で最も多かった。これが全面停止となり、中国内の飲食店などで他国産に置き換えが進んでいるのは大きな痛手といえる。
最大品目のホタテは、中国に輸出して殻むき作業を行い、米国などに輸出する取引が定着しており、加工・貿易業者にも影を落としている。
政府は、風評被害や漁業継続などへの対策基金に加え、国内の加工施設整備や販路開拓用を上積みして計1千億円の支援規模とした。ただ、高額となる設備投資や人手不足から活用のハードルが高いとの声もある。実態に即した柔軟な対応が求められよう。
国内では、福島沖の水揚げ品や、禁輸で積み上がる冷凍ホタテなどを食べて支援しようという消費者の動きも出ている。新たな販売先や需要の拡大につなげたい。
そのためにも政府と東電は、海や魚介への影響に細心の注意を払い、情報開示や説明の徹底が欠かせない。これまでの廃炉作業を通じ、国内外の不信を招いてきた消極的な姿勢を繰り返してはならない。
中国の禁輸措置は科学的根拠を欠き、政治利用を狙う不合理な圧力なのは明らかである。他国に連携を求めたが、広がっていない。
日本側は「科学的な安全性」を旗印に押し通そうとしたが、中国側の強硬姿勢を甘くみた「誤算」も否めない。
中国の政策変更を実現させるには、ハイレベルの対話が不可欠だ。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)などで早期に首脳会談を設け、日中関係を改善軌道に戻すための重要課題として事態打開を図りたい。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
米大使「安全性の風評根拠なし」 福島・南相馬のサーフィン視察
共同通信 / 2024年7月6日 18時28分
-
経済的威圧を強める中国、これまでの動きから見えてくる規制対象品選出の条件
マイナビニュース / 2024年7月5日 7時15分
-
メキシコの州政府機関と水産加工業者が訪日、ホタテ関連企業と商談(メキシコ、日本)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月2日 13時30分
-
福島処理水、安全性浸透と評価 23年度版原子力白書取りまとめ
共同通信 / 2024年6月25日 17時11分
-
福島原発処理水の放出容認せず 全漁連会長、中国の禁輸措置懸念
共同通信 / 2024年6月20日 18時3分
ランキング
-
1バブル期に各自治体へ1億円…「ふるさと創生」とは一体何だったのか 小学校に作った“巨大電飾看板”のその後
東海テレビ / 2024年7月19日 6時34分
-
2兵庫県知事「今、記憶がない」“特産品の要求音声”直撃に… パワハラ告発男性が残す
日テレNEWS NNN / 2024年7月18日 21時22分
-
3米軍関係者の性的暴行、他県でも非公表 「住民の被害を隠蔽」
毎日新聞 / 2024年7月18日 21時9分
-
4百条委提出の音声データにイチゴや塩の受け取りも示唆する発言 兵庫知事、相次ぎ受領か
産経ニュース / 2024年7月18日 21時46分
-
5手榴弾投げる訓練中の事故、死亡した隊員は「飛散破片に接触の危険性認識せず」…指揮官の適切な指導もなかったと結論
読売新聞 / 2024年7月19日 7時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください