社説:海自でセクハラ 本気で撲滅する対策を
京都新聞 / 2023年11月2日 16時0分
国防を担う組織で、旧態依然とした人権侵害が繰り返されている事態は看過できない。
海上自衛隊の呉地方総監部(広島県呉市)管内にある部隊で昨年8~12月、女性隊員へのセクハラ行為があったことが明らかになった。被害者が対面を拒否していたのに、加害者の男性隊員から直接謝罪をさせていた。
女性隊員は上司に相談したが、所属部隊ナンバー2の1等海佐は当初、対応を放置。さらに加害者を擁護する発言もあったといい、女性は退職を余儀なくされた。
性被害者を二重三重に苦しめる人権感覚の欠如にあぜんとする。厳正な処分を求めるとともに、再発防止のための検証や隊員の教育に本気で取り組むべきだ。
セクハラがあったのは、元陸上自衛官の五ノ井里奈さんによる性被害告発などを受け、防衛省が全隊員を対象に「特別防衛監察」を実施していた時期と重なる。
五ノ井さんの件でも当初、調査不足や口止めなどのずさんな対応が問題視された。防衛省はセクハラを認め謝罪したが、実態は何も変わっていないのではないか。
形を整えただけで幕引きを図ろうとする組織の隠ぺい体質が浮かび上がったといえよう。
「特別防衛監察」の結果によると、ハラスメント被害は1325件。うちパワハラは1115件、セクハラは179件だった。
全体の6割以上が相談窓口を利用していなかった。不利益を受けるとの懸念などが理由だ。相談しても人事上の悪影響を示唆されたなどの事案があったといい、調査結果も「氷山の一角」だろう。
自衛官は定員割れが続いており、3月末時点で約22万8千人と、定員より約1万9千人少ない。政府が防衛費を倍増して装備品をそろえても、使いこなす人がいなければ役に立たない。
ハラスメントがはびこる組織への就職を望む若者がいるだろうか。率先して取り組むべきは、その土壌の抜本的な改善にほかなるまい。相談や対応に、外部からの人材や第三者の目を思い切って入れてはどうか。
五ノ井さんは今回の件を受け、「被害者を理不尽に辞めさせない環境を早くつくるべきだ」と訴える。自衛隊は上下関係が厳しく、圧倒的多数の「男性優位」の考えが根強いとされる。
まずは社会の認識からかけ離れていることを自覚しなければ組織の再生はあり得ないと、防衛省と自衛隊は肝に銘じるべきだ。
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