なんで京都市民だけ受け取れないの「返済不要の奨学金」 府市協調・二重行政解消は悩みの種?
京都新聞 / 2023年12月13日 6時0分
元気よく走り回るネコを女性が優しそうな目で見守っていた。京都動物愛護センター(京都市南区)では毎日、ボランティアが保護されたイヌとネコの餌やりや部屋の掃除などを担っている。保護した子ネコを自宅で一時的に預かり、譲渡するまで世話をするボランティアと合わせると、本年度は計約120人が登録している。介護助手松田範子さん(48)=右京区=は「人を怖がっていたネコが人懐っこくなるのがうれしい」とやりがいを語る。
ボランティア活動は2015年、市と府が共同運営するセンターのオープンに合わせて始まった。もともと市が南区、府が西京区に別々の施設を設けていたが、センターに一本化された。都道府県と政令指定都市の共同運営は全国初で、運営費は府と市が折半している。22年度の市の負担は約1220万円で、市単独で運営していた時と比べて約280万円安くなった。
財政効果だけではない。22年度の殺処分はイヌが20匹、ネコが403匹で、共同運営前の14年度からイヌが約6割、ネコが約7割減った。伊東大輔センター長は「ボランティアに世話していただくことで人への警戒心が和らぎ、譲渡しやすくなる。府と市の境を越えた譲渡が可能となったことも大きい」と意義を語る。
政令市は道府県とほぼ同じ権限を持ち、対立することも珍しくない。府と市が同じような施設を整備することは「二重行政」との批判を浴びてきた。
門川大作氏は08年、当選後初めて行った山田啓二知事(当時)との懇談会で、二重行政の「象徴」と言われた観光案内所の統合を明らかにし、「大きな成果」と誇った。住民投票で「大阪都構想」が否決された15年5月に「府市協調による二重行政解消で、全国に例のない成果を上げている」とコメントし、大阪との違いを強調。その後も市議会、府議会の積極的な後押しもあって、消防学校共同化(17年度)や市衛生環境研究所と府保健環境研究所の合築(19年度)など類似施設の効率化を進めた。
一方、足並みがそろわない事業も残る。京都府は母子家庭に年齢に応じて子ども1人に年1万1千~6万5千円を支給する返済不要の奨学金制度(所得制限なし)を設けているが、京都市民だけは受け取れない。
「同じ府民なのに、市民だけ対象外なのはおかしい」。京都市で小学5年の長男を育てるひとり親の会社員女性(44)は憤る。小学生の支給額は1人2万1500円。1カ月にすると約1800円になる。「それだけあれば1回外食に連れて行ってあげられる。市に代わりの支援策がある訳でもないのに」と嘆く。
市は市民にも支給するよう府に求めるが、予算が現行の約4億円から2倍に膨れあがるため、府は拒んでいる。府は1974年の制度開始当初、市も共同実施を検討していたが、実施を見送った経緯も理由に挙げる。市幹部は「そんな50年も前の話を持ち出されても…。京都市と他の市町村の格差を解消してほしい」と不満を漏らす。
また門川氏がたびたび知事に求めた消防ヘリに対する府の負担拡充や地下鉄への経営支援も実現していない。府幹部は「府内の均衡のある発展のため、都市部で得た税収を地方へ還元するのも府の大きな役割。政令市は権限も財源も大きく、都合の良い時だけ他の市町村と同じように財政支援を要求するのは違うのでは」と首をかしげる。
人口約144万人の基礎自治体であるとともに、京都府内のけん引役も求められる京都市。次期市長も「府市協調」は悩みの種となりそうだ。
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