社説:陸自靖国参拝 戦争への反省、疑われる
京都新聞 / 2024年1月17日 16時0分
戦争への反省の上に立つ現憲法の精神と相いれない。
陸上自衛隊の幹部ら数十人が、東京・靖国神社を集団参拝したことが明らかになった。
憲法は、国やその機関による宗教的活動を禁じている。防衛省は通達で、宗教の礼拝所を部隊として参拝することや、隊員の参加の強制を禁止しており、違反が強く疑われる。
政府が推し進める「防衛力の抜本的強化」を担う自衛隊で、戦前の軍国主義の影を引きずる靖国崇拝を組織的に広げる動きがあるとすれば看過できない。
防衛省は詳しく事実関係を調査し、厳正に対処すべきだ。
参拝は9日午後で、小林弘樹陸上幕僚副長(陸将)が委員長を務める陸自の航空事故調査委員会の関係者が赴き、私費で玉串を奉納した。全員が時間休などを取得して私服で参列し、「公式参拝的な意味合いでない」と説明しているという。
もちろん自衛官も個人としては信教の自由が保障される。
だが、集団参拝は新年の安全祈願として陸自の同委担当部署が実施計画書を作って行った。同省は行政文書として作成、保存されたと認めており、組織的な公務とも映る。
小林副長ら一部は、時間休の間に公用車で防衛省と往復していた。能登半島地震の災害派遣中のため「速やかに職務に戻るため」というが、懸命な被災地活動を尻目に、幹部らが集団で離れること自体、問題だろう。
いつから、どういう経緯で行われ、参列の強制や異論はなかったのか、厳しく問われよう。
憲法の「政教分離」は、軍国主義と国家神道が結びついた痛苦の経験に基づく。
靖国神社は戦争遂行の精神的な柱とされ、太平洋戦争などの戦死者約250万人を祭る。戦後に宗教法人となるが、戦争を主導した東条英機元首相らA級戦犯を1978年に合祀し、「侵略戦争の美化」と国内外から批判が絶えない。
自衛隊では、2015年にも陸自化学学校が「精神教育の一部」として靖国神社に参拝し、関係者が処分された。
近年、幹部学校などで、戦争肯定や改憲を主張する右派論者を頻繁に講師に招いていることを、危ぶむ防衛大教授の告発もある。
戦争への反省と平和の希求をうたう憲法を、厳格に順守する責任と規律こそ、自衛隊に求められている。
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