社説:月探査機スリム 課題残すも宇宙へ弾み
京都新聞 / 2024年1月24日 16時0分
完璧な成功は逃したとはいえ、日本の宇宙探査にとって重要な一歩となった。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「SLIM(スリム)」が初めて月面に着陸した。
探査開始から約半世紀たっても月への着陸は難しく、旧ソ連、米国、中国、インドに続く5カ国目の快挙だ。JAXAは「ぎりぎり合格の60点」とするが、課題を克服して信頼感を高め、宇宙探査に向けた国際協力に弾みをつけたい。
スリムは月面での高精度着陸技術の実証機で、「降りたい場所」から100メートル以内に「ピンポイント着陸」させるという世界でも前例のない難題に挑んだ。
各国が月探査に公費を投じているのは、将来の宇宙開発の鍵を握る水資源を確保するためだ。月には局所的に氷の状態で存在するとみられ、狙った地点に探査機を降ろす技術が欠かせない。
JAXAによると、スリムは20日未明、月の周回軌道から最終降下を始め、約20分後に赤道南側の「神酒(みき)の海」のクレーター付近に着陸した。データ解析を待たねばならないが、スリムは地球からの指示に正確に反応しており、計画通り実行できたとみられる。画像認識を活用した着陸など独自技術が実証されれば価値は大きい。
昨年3月にJAXAなどが新型主力機H3ロケット1号機の打ち上げに失敗し、翌4月には日本初の民間宇宙ベンチャーが無人機を月面へ降下させたが、着陸を確認できなかった。日本の技術に対する信頼を取り戻せるか、踏ん張りどころだったが、スリムの着陸成功で競争が激化する月面探査への足がかりを得たとも言える。
ただ、太陽電池パネルに光が当たらず発電ができなくなった。着陸時の姿勢が問題とみられ、バッテリーが尽きる恐れがある。
予定していた月面での調査などへの影響が懸念され、立命館大も参画する特殊カメラによる鉱物調査は難しそうだ。月の起源に迫る探査の目玉だっただけに残念である。
米主導の国際月探査「アルテミス計画」では2025年以降、アポロ計画から約半世紀ぶりに人類が月面に降り立つ。月に火星探査の拠点を置くことも見据えている。一方、中国なども月の資源開発をはじめ、宇宙での覇権を競い、大国間の対立が宇宙空間にも及びつつある。
日本は独自技術を磨くとともに、宇宙の平和利用に向けたルールづくりに努め、宇宙開発を巡る世界での存在感を高めたい。
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