街中に「ニャー」 善意だけでは続かない京都市の「まちねこ活動」 住民の負担と本音
京都新聞 / 2024年1月28日 6時0分
野良猫を増やさないため、京都市が「まちねこ活動」に力を入れている。町内会などの同意を得て野良猫の世話をする住民を支援する制度で、継続すれば着実に野良猫が減ることが明らかになっている。だが実際に取り組む住民からは負担の大きさや、さらなる支援を求める声も聞かれている。
京都市南区の住宅街。午後4時になると1匹の猫が「ニャー」と餌をねだってやってきた。その後も次々と猫が集まり、いつの間にか計8匹に。どの猫も避妊去勢済みの目印として、耳先がV字にカットされているのが特徴だ。
この地域では、住民3人が主体となって1日2回、5カ所程度の餌やりや、ふんの掃除といった世話を続けてきた。市の「まちねこ活動支援事業」に登録したのは2019年。空き家で大繁殖した野良猫が一時は45匹にまで膨れあがり、鳴き声の苦情などに困って市に相談をもちかけたのがきっかけだった。
猫を捕獲して避妊去勢手術を行う一方、水飲み場や寒さをしのぐ寝床の提供を近隣住民にも依頼してきた。地道に活動を続けてきた結果、今では20匹程度まで減少したという。
京都市の「まちねこ活動」が始まったのは2010年度。住民2人以上でグループを作り、町内会などの合意を得て餌やりのルール作りやトイレの設置などを行う地域に登録をしてもらい、市が活動を支援してきた。これまでに計323地域が登録し、無償で行った避妊去勢手術は計2098匹(22年度末)に上るという。
市がまちねこ活動に力を入れるのは、その猫一代の命をまっとうさせつつ、ふん尿や鳴き声などで苦情も多い野良猫の数を減らせるためだ。野良猫は愛護動物であるため、行政で駆除はできない。野良猫の寿命は4~5年とされており、その間、子猫が生まれるのを防げれば野良猫は減っていくことになる。
市の調査によると、登録地域では活動3年目で野良猫の減少が顕著になり、続けるほど減少幅が大きくなる効果がみられた。担当者は「すぐに結果が見えるものではないが成果は出ており、徐々に活動も広まって浸透してきている」とする。
一方、市内の路上で車にひかれるなどして死んだ猫は14年度の5169匹から22年度は2399匹に半減。市は野良猫全体が減っていることが影響しているとし、まちねこ活動の拡大も減少の一因とみている。
だが、まちねこ活動に取り組む南区の女性(77)は「私の人生、猫のためにあるのかしら、とこのごろ思う」と表情を曇らせる。
女性が世話をする10匹程度にかかる餌代やトイレの砂代、ワクチンやけがの治療といった医療費などは月4~6万円に上る。すべて自腹で、別の仲間の負担はもっと多いという。「猫が好きなわけでもなく、町内会長だった時に大量の野良猫が問題になったから、仕方なくやってきた。お金も人手も足りなくて、年金暮らしではとても無理」とため息を漏らす。
市が無償で行う避妊去勢手術も、このグループが利用したのは18件だけ。残る150件近くは自費で民間の動物病院へ依頼したという。グループの別の女性(58)は「30匹以上いるのに市で当時手術できるのは月に数匹程度で、一緒にワクチンも打ってもらえない。一気に手術できないと、そのうちおりにも入らなくなるし、その間に子猫も増えてしまう。市の無償手術はとても待っていられない」と実情を語る。
活動の中で、特に頭を悩ませるのは近隣住民から寄せられる野良猫への苦情の対応という。猫のふんがあれば「早く取って」と怒る人や、まちねこ活動ではない無責任な餌やりと勘違いして苦情を言う人も少なくない。取材では「猫が空き家に住み着いて夏は臭い。まちねこ活動では、いなくなるのに何年もかかる。昔みたいに捕まえて保健所に連れて行ってほしい」と憤る住民にも会った。
グループの女性(32)は「猫が嫌いな人も、不幸な猫を減らしたい私たちも、野良猫がいなくなってほしいという目的は一緒。そのためにはTNR(捕獲、避妊去勢、元の場所へ放す、を意味する英語の頭文字)を続けるのが一番なんです」と理解を求めた。
この地域では、野良猫のもらい手を探す譲渡会にも力を入れ、着実に数を減らしてきた。だが別の地域から新しい野良猫が入り込んで、子猫を産むことも絶えないという。
グループは「街全体へまちねこ活動が広がっていかないと、きりがない。私らは好きでやっている特殊な人間のように思われるけど誰でもできる。無責任な餌やりをする人や野良猫に困っている人が、まちねこ活動を簡単に始められるように、市にはもっと丁寧にアドバイスや支援をしていってほしい」と訴えた。
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