社説:認知症の新薬 正しい理解を広げて活用を
京都新聞 / 2024年2月6日 16時0分
アルツハイマー型認知症の患者に対する新薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」の投与が、国内で始まった。
従来の薬とは異なる構造を持つことから、話題と期待がやや先行した面が否めない。対象者も効果も限定的で、副作用のリスクがあることを踏まえ、冷静に活用していきたい。
「うちの親に新薬は使えませんか」。京都市内の医師は、認知症患者の家族からの問い合わせが増えた。多くの人が適用外であることを説明するが、がっかりする姿もみられるという。
認知症の6~7割を占めるアルツハイマー病は、発症のメカニズムが十分に解明されておらず、根本的な治療法はない。徐々に脳の神経細胞が死滅し、記憶や判断力が低下していく。
国内では12年ぶりとなる新薬は、原因の一つとされるタンパク質「アミロイドベータ」を脳内から取り除くことで進行を遅らせる効果が認められた。昨年12月に保険適用となり、一部医療機関で投与されている。
日米の製薬大手が共同開発し、「科学的には画期的な一歩」との評価があり、米国で先行承認された頃から国内でも注目が高まっていた。
ただ、臨床の現場では「過剰な期待は禁物」と指摘する医師が多い。課題を見据え、正しい理解を広げる必要がある。
まず、病気を治す薬ではない。臨床試験(治験)では1年半の投与で症状悪化のスピードを27%遅らせたとされる。およそ半年の先延ばし効果になるが、個人差もあり、患者や家族は実感しづらいようだ。長期間の投与データは整っていない。
誰でもどこでも投与できるわけでもない。対象は軽度患者と、前段階の「軽度認知障害」の人に限られる。7年後のピーク時で年3万人余りと見込む。
専門医や検査機器が整った病院で診断を受け、条件を満たせば、2週間に1度の点滴に通う。ただ、投与者の12~17%には、脳のむくみや出血といった副作用が報告されている。効果とともに十分な検証が要る。
社会的には年間約300万円(体重50キロの場合)になる薬価は課題だが、所得に応じて上限を定める医療制度があるため、患者負担は抑えられる。
認知症患者は来年、700万人に達すると見込まれる。高齢者の5人に1人にあたり、15年後には4人に1人にまで増える可能性がある。
先月1日には、認知症基本法が施行された。「認知症の人が基本的人権を享受し、自らの意思で日常生活を送れるようにする」との理念を掲げる。
介護保険の充実はもちろん、担い手の確保や認知症への理解促進など、国や自治体は一層踏み込んだ取り組みが問われる。
京都、滋賀でも本人らの声を聞き、地域実情に合った「共生社会」への施策を講じたい。
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