社説:情報扱い者調査 危うい民間人への拡大
京都新聞 / 2024年2月9日 16時5分
極めて曖昧で、広範な市民のプライバシーが脅かされる危うさをはらんだ制度だろう。
人工知能(AI)や宇宙、サイバーなど、経済安全保障に関わる国家機密の取り扱いを有資格者に限る新たな「セキュリティー・クリアランス」制度の導入を、政府が目指している。今国会で新法案を提出する方針という。
新制度は、特定秘密保護法で防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野に限定した国家機密の対象を、経済安保分野にも広げる。
政府の有識者会議の提言や法案の概要によると、安保に「支障」を与える恐れのある情報を国が「重要経済安保情報」に指定する。機密情報にアクセスできる人について身辺調査をした上で資格を与える。
調査対象者は、秘密保護法ではほとんど国家公務員だったが、経済安保分野が加わることで、民間人にも大きく広がる。犯罪歴や借金の状況などが調べられ、家族も対象となる。調査範囲がどこまで及ぶのかは明確でない。
政府は調査について「本人の同意が前提」とするが、有資格者でないと仕事が続けられなくなる可能性が高い。会社からの指示を拒否するのは困難とみられ、事実上の強制になるのではないか。
機密とする情報の線引きも示されておらず、政府が恣意的に情報を機密指定する恐れも否めない。
調査における個人情報の管理を厳格化するのはもちろん、歯止めを設けて検証できるよう、透明性の確保や監視機能の強化などが大前提だ。
制度はAIやサイバー分野などで軍事用と民生用の線引きが難しいことを理由に、特定秘密保護法と一体的に運用するという。
情報を漏らした場合は、機密度の高さに応じて、懲役10年以下など2段階の罰則を設ける。
政府は、米欧主要国で同様の制度があり、導入することで日本企業が国際ビジネスに参入しやすくなると説明する。
だが、機密や資格の基準が生煮えで重罰を科すのでは、かえって企業活動を制約しないか。
特定秘密保護法では、自衛隊の秘密漏えいがありながら、内容が不開示で立証できないとして刑事処分されなかった。不透明さが改めて浮き彫りになった。国会の監視体制も機能していない。
知る権利や人権侵害に対し問題点を積み残しながら、安保を名目にして、なし崩し的に対象と内容を広げることは認められない。
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