社説:子育て支援金 ごまかしの「負担ゼロ」
京都新聞 / 2024年2月21日 16時5分
政府は昨年末に策定した「こども未来戦略」を盛り込んだ少子化対策関連法案を国会へ提出した。
財源の一つとして医療保険料に上乗せして国民から新たに徴収する「子ども・子育て支援金」を2026年4月に創設するとした。
岸田文雄首相は「実質負担ゼロ」との説明に終始するが、いつまでごまかし続けるのか。
出生数が22年に初の80万人割れし、少子化に歯止めがかからない。岸田氏は「次元の異なる少子化対策」を掲げ、30年までが反転のラストチャンスと位置付ける。
法案には、児童手当の拡充や育児休業給付の引き上げといった施策が並ぶ。少子化対策の必要性に異論はない。
ただ、政策実行には年間3兆6千億円程度の財源が要る。既存の予算活用や社会保障の歳出削減のほか、新たに幅広い世代や企業から徴収する子育て支援金を順次増額して1兆円を捻出するという。
政府は徴収額を医療保険加入者1人当たり月平均500円弱という「粗い試算」を示しているものの、詳細は不明だ。所得水準や加入する医療保険により徴収額は異なり、給料から天引きされる会社員の多くは年間1万円を超えるとみられる。肝心の子育て世帯にとっても負担は決して小さくない。
政府は、社会保障の歳出削減と賃上げで社会保険料の伸び分を吸収するため、「新たな負担は生じない」と繰り返す。だが、高齢化と担い手確保に対応しながら医療や介護の費用削減は容易ではなく、利用者へのサービス低下にもつながりかねない。
まして賃上げは企業が決めることで、不確実だ。与党議員さえ「負担ゼロは詭弁(きべん)だ」と案じるようでは国民の納得は得られまい。
そもそも医療のリスクを負担し合うのが保険制度である。子育て支援への「流用」は筋違いだ。必要なら税金で賄い、政権はその是非を国民に問うべきであろう。
国民の反発を招く増税は避けたい、負担が見えにくい医療保険料なら徴収しやすい、との「及び腰」が透ける。
財源論議は生煮えで、誠実さに欠ける政権の姿勢こそが若者や子育て世帯の将来不安をかき立てよう。これでは少子化の流れを変えるのは難しい。
少子化の要因として、結婚や出産に踏み切れない若年層の不安定な雇用なども大きい。子育て世帯への支援に偏りがちな未来戦略の妥当性も含め、子どもを産み、育てやすい環境づくりに向けた国会での議論を求めたい。
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