社説:農業と「食料安保」 現場の実情を踏まえてこそ
京都新聞 / 2024年3月4日 16時0分
政府が今後の農政の在り方や食料確保策を示す「食料・農業・農村基本法」の改正案など関連3法案を国会に提出した。
1999年の施行以来、初となる基本法の改正案は食料安全保障の確保を柱に置く。
併せて新設する「食料供給困難事態対策法」で、コメや小麦、大豆などの供給目標を決め、食料危機の際には政府が農家に増産を指示する体制を整える。
気候変動やロシアによるウクライナ侵攻をはじめとする国際紛争、感染症の拡大などが食料の生産や流通に深刻な影響を与えている。長期的な視野に立ち、食料の安定供給体制を強化するのは重要な課題だ。
そのためには、先細りを続ける農業の担い手と基盤の実情を踏まえた冷静な議論が欠かせない。
主に農業で生計を立てる基幹的農業従事者は2020年までの過去20年でほぼ半減した。全体の70%が65歳以上で、49歳以下は11%に過ぎない。耕作放棄地も増えている。
担い手や生産インフラである適切な農地を確保できなければ、新たな政策もかけ声倒れになりかねない。
基本法改正案は食料の自給、自立のほか、肥料や飼料、農業資材の確保などを念頭に目標をつくり、達成状況を調査するとしている。だが、喫緊の課題に具体的な踏み込みが足りないのが気になる。
日本の22年度の食料自給率(カロリーベース)は38%と、先進国で最低水準が続いている。この心細い状況は、長年続けたコメの減反政策や、小麦や大豆、飼料作物を輸入に頼ってきたことが響いている。
国産肉でも国産飼料で育ったものは30%に満たない。飼料の高騰の影響などで、滋賀県内の酪農家の戸数は昨年、前年比17%減少した。
減反をはじめ、結果的に農業の衰退を招いた政策を総括し、国内生産のてこ入れを急ぐ必要がある。何より、これからの担い手になる若い就農者を増やすことが急務だ。
改正案を取りまとめた農林水産省の部会では、農業で生活できる収入の重要性が指摘された。改正案では、スマート農業による生産性の向上などを明記しているが、農家の安定収入の確保策こそ必要ではないか。
大規模化や農地の集約をさらに進めるとしているが、国土と環境保全の観点からは、地域・集落農業の維持も重要だ。
食料供給困難事態対策法案は、農家に指定作物の作付けや増産、流通制限も指示できる。罰金規定もあり、統制色が際立つ。土壌や肥料が違う品目へ強制的に切り替えさせるようなことが、現実的とは思えない。
「食料安保」の名の下で危機感をあおるばかりでなく、現実的な政策を着実に積み上げていく必要がある。
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