社説:戦闘機の輸出 なし崩しの突破にならぬか
京都新聞 / 2024年3月12日 16時0分
平和国家として戦後に積み重ねてきた日本の信用を危うくするのではないか。国民的な議論もなく、与党の密室協議で押し通すことは許されない。
日本が英国、イタリアと共同開発を目指す次期戦闘機を巡り、第三国への輸出を解禁する方向で自民党と公明党が合意に向けて詰めの協議に入っているという。
慎重な立場だった公明が、次期戦闘機に限るなどの歯止め策を含めた政府方針を踏まえ、容認へかじを切る構えだ。
だが、戦闘機は殺傷能力の高い最たる兵器であり、輸出は国際紛争を助長するリスクを伴う。歯止めとは反対に、なし崩しに広げる「突破口」となる懸念が拭えない。
日本は、長く「武器輸出三原則」で禁輸政策を取ってきたが、2014年に安倍晋三政権が「防衛装備移転」と言い換えて限定的に解禁した。
昨年末には岸田文雄政権が、外国からライセンスを得て日本で生産した武器を元の開発国に供給できるようにするなど、輸出ルールの緩和を決めた。
さらに次期戦闘機の解禁に政府が前のめりなのは、第三国輸出をしないと調達コストが高くつくというのが大きな理由だ。
22年に共同開発を決めた際は輸出が前提とされていなかったが、首相は、価格低下のため英伊から同様に輸出するよう要請されたという。日本が共同開発で不利となり、求める戦闘機の実現が困難とならないよう「貢献し得る立場を確保することが国益」と説明している。
だが、日本産兵器が他国の人々を傷つけ、紛争激化を招く恐れは否めない。憲法9条に基づく「必要最小限の自衛力」と「専守防衛」の国是を踏み越えないか。
政府内では、歯止め策として解禁を次期戦闘機に限り、輸出先は紛争当事国を除いた上に、「防衛装備品・技術移転協定」を日本と締結した国などに絞る案が出ているという。
だが、国際情勢の流動化に加え、輸出後の目的外使用や再移転を監視・抑止し続けることは困難だろう。
そもそも共同開発だからと殺傷兵器を解禁するなら、「救難」「掃海」など非戦闘目的の5分野を輸出可能とするルール自体が空文化する。自民は5分野の撤廃、全面解禁に前向きで、与党による事前審査を条件とする案も歯止めになり得ない。
問題なのは、重大な政策転換を与党の協議だけで決めようとしていることだ。輸出拡大を掲げた一昨年の安全保障関連3文書の改定をはじめ、国会審議を極力避け、与党の結論を押し付ける強引さが目に余る。
公明は、安保政策で歯止め役を標ぼうしなから、連立維持のため妥協を繰り返している。掲げる「平和の党」の理念が改めて問われている。
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