社説:金融正常化へ 緩和策の弊害直視し着実に
京都新聞 / 2024年3月20日 16時0分
11年にも及ぶ特異な金融政策の正常化に向け、大きな転換点には違いないだろう。
日銀は、大規模な金融緩和政策の柱であるマイナス金利政策の解除を決めた。2007年以来、実に17年ぶりの利上げである。
さらに、長期金利を低く抑える長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)や、上場投資信託(ETF)の新規購入などの枠組みもなくした。
今春闘の高水準の賃上げを受け、賃金と物価がそろって安定的に上がる「経済の好循環」が実現するとの判断からだ。
植田和男総裁は、大規模緩和策について「役割を果たした」と好循環への手応えを語った。
大幅賃上げを理由に
だが、物価目標に固執し、「禁じ手」を重ねた金融政策が、日本経済にもたらした弊害と市場のゆがみは大きい。つぶさに傷痕と影響を見据え、着実に正常化を進めていかねばならない。
大規模金融緩和策は、黒田東彦前総裁が就任直後の13年4月に始めた。安倍晋三政権の「アベノミクス」の支柱として、2年程度の「短期集中」で物価上昇率を2%に安定させるとした。
だが、目標は実現せず、16年に追加緩和策でマイナス金利政策を導入した。民間銀行が日銀に預ける当座預金の一部に年0.1%の手数料を課し、融資増による景気刺激を促した。
日銀だけが世界で唯一続けてきたが、解除後は、金融機関間で短期資金を貸し借りする金利を0~0.1%程度に誘導する。
解除を決定付けたのは、今春闘で相次ぐ大幅賃上げだ。連合の中間集計で、平均賃上げ率は5.28%と33年ぶりの高水準で推移。好業績の大企業に加え、人手不足を背景に中小企業も4.42%と広がりが見られるという。
景気への目配り継続
注視してきた消費者物価の動向は、23年に前年比3.1%増と、2年連続で2%上昇目標を上回る状況にある。世界的な資源高や円安の要因が大きいとしてきたが、ここに来て人材を確保するためのコスト増も反映され、賃上げが消費拡大に回る環境が一定整ったと見たのだろう。
ただ、実質賃金は1月まで22カ月連続で前年同月を下回り続け、この間の物価上昇に追い付いていない。国民の生活実感は上向いておらず、昨年10~12月の実質国内総生産(GDP)でも、個人消費は前期比0.3%減と力強さを欠いたままだ。
今後、働く人の4割近い非正規労働者を含め、継続的な賃金上昇が行き渡るか注意深く見ていく必要がある。
植田氏は決定後の記者会見で、急激な利上げを否定し、当面は緩和的な金融環境が続くと強調して景気への影響に配慮を見せた。
今回の政策転換では、市場から国債を買い上げて長期金利を0%程度にするYCCの誘導目標と、「1%をめど」とする上限も撤廃した。
一方、金利の急上昇を防ぐために長期国債の買い入れは続け、「指し値オペ」と呼ばれる無制限に買う枠組みも残すという。
これまでの大規模緩和を通じて日銀が買い入れた巨額の資産をどう処分していくか。大きな課題は手つかずだ。
日銀が大量購入した国債は、既に発行残高の5割超にも上る。国の借金を中央銀行が肩代わりする「財政ファイナンス」と見られても仕方ない状態にある。
また、保有するETFは時価70兆円ともされ、日銀は日本企業にとって「もの言わぬ最大の株主」とされる存在だ。
こうした金利抑制と相場の下支えを狙った大量の資金の流し入れは、市場の価格形成機能をゆがめる副作用を拡大した。緩和マネーがあふれる「ぬるま湯」状態が長期にわたり、日本経済と行財政の足腰を弱めたのは間違いない。
高まる金利のリスク
今後、金融市場に混乱を招かぬよう、明確な方針を説明しながら着実に資産処分を進めることが求められよう。
また、2%目標に縛られた緩和継続は、資源高に伴うインフレ抑制へ利上げを重ねた米欧との金利差を広げた。円安進行で物価高を助長し、国民生活を圧迫したのは見過ごせない。物価目標の妥当性を含め、アベノミクスの包括的な検証と反省が欠かせまい。
マイナス金利時代の転換を受け、企業や市民も「金利のある社会」に向けた対応が急がれる。
大手銀行は、07年以来となる普通預金の金利引き上げに動く一方、企業側は投資や借入返済の再点検が求められよう。住宅ローンは、利用者の7割超が「変動金利型」を利用している。当面の影響は大きくないとみられているが、将来的な変動リスクを踏まえたい。
待ったなしなのは、国の財政の正常化である。日銀が金利を低く抑える中、政府は借金を重ねて財政支出を膨らませてきたが、金利の上昇局面では利払い費が大きくかさみ、政策経費を圧迫する。政治は財政規律を取り戻す責任を負っている。
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