社説:水俣病の救済 いつまで放置するのか
京都新聞 / 2024年3月28日 16時0分
異なる司法判断と実情に目を背けたままの行政のはざまで、これ以上、水俣病の被害に苦しむ人たちを放置すべきではない。
水俣病特別措置法の救済対象から外れた熊本、鹿児島両県などの144人が、国と熊本県、原因企業のチッソに損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁は原告全員の請求を棄却した。
このうち25人は発症の時期などから水俣病と認めたものの、損害賠償請求権は発症時に生じていたとの判断を示し、民法が定める20年の除斥期間を過ぎて権利が消滅したとみなした。
同種の訴訟は新潟、東京、大阪でも提起されている。昨年9月の大阪地裁判決では、関西に暮らす原告128人全員を水俣病と認め、国などに賠償を命じた。
地元・熊本の原告からは、全く逆の判断に失望の声が相次いだ。平均年齢は70代半ばである。控訴の方針というが、さらなる長期化の負担は重い。政府が速やかに全面的な救済へ動くべきだ。
「公害の原点」とされる水俣病は1956年に公式確認され、水銀に汚染された魚介類を食べた人に手足のしびれなどの症状が出た。国は77年に認定基準を厳格化し、認められたのは3千人にとどまる。多くの被害者が救済から漏れ、95年と2009年、一時金を支払う「政治決着」を2回行った。
09年施行の特措法は、「あたう限りすべて救済される」とした。にもかかわらず、出生年や居住地などで線引きした結果、約3万8千人に一時金などが支給されたが、約9600人が対象外となり、一連の訴訟に至っている。
50年近く前の基準に長く固執し、被害を小さく押し込めてきた国の姿勢が、遅れて水俣病と気付く人たちの救済の道を閉ざし、解決を長引かせてきたのは明白ではないか。
今回の判決で除斥期間を適用したのは容認できない。それでも、25人を水俣病と認定したのは、特措法を含む今の制度の不備を明確に指摘したものだ。
ところが、伊藤信太郎環境相は、この25人についても「国の主張が認められなかった」と、切り捨てるかのように述べた。
特措法は、水俣と周辺住民の健康調査を速やかに行うと定めている。だが、「調査の在り方を研究する」との口実で、法施行から15年となる今も実施していない。行政の不作為というほかない。
政府は幅広く救済する真の解決へ踏み出すべきだ。
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