社説:戦闘機の輸出 「歯止め」のない転換だ
京都新聞 / 2024年3月29日 16時5分
なし崩しで、殺傷兵器を世界に売る国にしてしまうのか。
政府は英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出の解禁を閣議決定した。
岸田文雄政権は昨年末、米が開発した地対空ミサイル「パトリオット」の国内ライセンス生産品を米国へ輸出することに道を開いた。
これに続き、与党だけの協議で殺傷兵器の輸出を解禁する。国際紛争を助長しかねず、国民的な議論をしないまま、平和国家としての日本の歩みを転換するものだ。
政府は閣議決定を踏まえて防衛装備移転三原則を改定し、第三国への輸出は次期戦闘機に限る▽輸出先は防衛装備品・技術移転協定を結ぶ国▽現に戦闘が行われている国は除外―とした。
木原稔防衛相は「厳格なプロセス」と胸を張る。解禁に慎重な立場だった公明党も容認に転じたが、とても「歯止め」と言えるものではない。
現在協定を結ぶ15カ国には、パキスタンと紛争状態にあるインドも含まれる。いまは戦闘が行われていなくても、今後紛争が起こる可能性はある。
輸出後に戦闘機が適正に管理されるかも重大な課題だ。政府は事前同意なしの第三国移転を禁じていると説明するが、現実に阻止するのは困難ではないか。
今後の輸出については、個別案件ごとに与党合意に基づいて閣議決定を経るとしている。だが、自民党の小野寺五典元防衛相が「新しい案件を追記していけばいいだけ。何の制約もない」と言うように、与党だけの「密室協議」で際限なく輸出が広がりかねない。
「厳格なプロセス」には、国会の関与は含まれず、協定締結国も輸出を前提に政府の判断で増やすことができる。
世界最大の武器輸出国である米国でさえ、輸出には議会への報告と承認が必要なのに、日本では政権に対するブレーキが見当たらない。戦争に巻き込まれるリスクを危ぶむ。
政府の輸出解禁の背景には、販路拡大で製造コストを抑えるよう英・伊両国からの働きかけがある。
問題の本質は、憲法に基づく専守防衛の国是を突き破る方向にかじを切ることに他ならない。
自民党派閥の裏金問題で迷走し国民の信頼を失っている岸田政権に、そんな重大な判断を担う資格があるのか。
現状では報道各社の世論調査で国民の賛否は二分している。国会で議論し直すべきだ。
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