社説:リニア開業延期 不安の声軽んじたツケ
京都新聞 / 2024年4月3日 16時0分
リニア中央新幹線の品川―名古屋間の開業が、当初目標の2027年から34年以降に延期されることになった。事業主体のJR東海が正式に明らかにした。大阪への延伸計画も後倒しになる。
JR東海は、静岡県内のトンネル工事で県との協議が難航し、着工できていないのが原因としている。
自らには非がないとでも言いたげだが、当初の計画に無理があったうえ、説明責任を十分に果たそうとしない姿勢が混乱を招いているのは明らかだ。いったん立ち止まり、妥当性も含め再検討する機会にしてはどうか。
リニアの工事は14年12月に始まり、静岡工区は17年末に着工を見込んでいた。しかし静岡県は南アルプスを貫くトンネル工事の影響で湧水が流出し、大井川の水量が減少して流域62万人の生活用水や事業者の利水に影響が及ぶとして懸念を示した。
この問題については昨年、JR東海が大井川上流にあるダムの取水を制限して流量を維持するという対策案を示し、県は了承した。
だが、県は生態系への影響についても多くの懸念が残っているとして、今も着工を認めてない。
両者を取り持つ形で国が設置した有識者会議がJR東海の環境保全策を評価する仕組みを設けたが、県は自然保全策が不十分としている。
リニア工事を巡っては、着工前の14年6月、環境アセスメントで「相当な環境負荷が生じる」との「環境相意見」が付いた。地下水位の低下の可能性をあげ、猛禽類の繁殖への影響回避も強く求めていたが、十分な議論を経ず国土交通相が計画認可した。問題先送りのツケが回ってきたともいえる。
大量の工事残土の受け入れ先も確定していない。静岡県だけでなく、今後の長野や岐阜の工区でも土壌や水の汚染、輸送トラックの排ガス問題が懸念されている。
リニア計画は、大阪までの総工費9兆円のうち、国が財政投融資の低利資金3兆円で支援する。「国家プロジェクト」との「お墨付き」があるからと、JR東海は自治体や住民への説明や理解を軽んじていたのではないか。
深さ40メートル以下の大深度トンネル工事の問題は、京都府の地下を貫く計画の北陸新幹線の延伸事業にも共通する。
人口減やオンライン会議の定着などで交通需要の見通しは変化している。輸送量と速度を追い続ける大規模プロジェクトの在り方を議論すべきではないか。
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