社説:香港国安条例 自由の後退を憂慮する
京都新聞 / 2024年4月11日 16時0分
中国による社会統制が強まり、言論の自由はさらに後退する。開かれた国際都市としての香港の変質を強く憂慮する。
香港でスパイ行為や外国勢力の干渉などを取り締まる国家安全条例が施行された。「社会が安定し、経済にプラスになる」との香港政府の主張とは裏腹に、進出企業の間では「犯罪行為の定義が曖昧すぎる」との懸念が高まる。
香港を巡っては、2020年6月、中国の習近平政権が香港国家安全維持法(国安法)を施行。19年の大規模デモのような政治への抗議活動を徹底的に封じ、メディアや表現への規制を強めた。
今回の条例は、国安法に含まれない行為を新たに犯罪として規定し、国家への反逆や機密の窃取などを禁じた。最高刑は終身刑で、国籍に関わらず適用される。
外交・防衛を除く幅広い分野で香港の高度な自治を保障した「一国二制度」の有名無実化を一段と進めるものだ。
最も問題なのは、こうした犯罪行為の定義が明確でないことだ。国家機密の範囲は、政府トップの行政長官に認定する権限が与えられた。運用次第で拡大解釈され、表現の自由や企業活動にも制限が加わると不安視されている。
にもかかわらず、香港の議会である立法会は法案の提案からわずか11日後に全会一致で可決した。民主派を排除し、親中派が独占する議会の形骸化は目に余る。
条例施行3日後には、国安法違反で服役中の民主活動家の減刑措置が取り消されたことが判明。行政の厳しい姿勢の下、司法の独立性への影響も懸念されている。
香港政府ナンバー3の陳茂波財政官は「条例により香港のビジネス環境は安定し、経済改善に力を集中できる」と強調する。だが、経済的に結びつきが深い日米英や欧州連合(EU)は相次いで懸念を表明し、オーストラリア政府は「意図せず拘束される可能性がある」と自国民に注意喚起した。
国家統制を強める習政権の下、中国本土でスパイ行為に関わったとして当局に拘束された日本人は17人に上る。昨年7月には反スパイ法改正で摘発対象が拡大され、香港でも同様の状況にならないかと強く危惧される。
中国政府は、低迷する経済の立て直しを最大の課題に据える。だが、自由への締め付け強化は、外国企業の香港離れを招き、すでに深刻な香港からの人材流出を加速させるだろう。大きな損失となることを認識すべきだ。
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