「何千万回」刺されても養蜂に夢中 50代で脱サラ 心の原風景求め、見つけた第二の人生
京都新聞 / 2024年5月2日 15時30分
寄下登さん(75)は、大手ガス会社に勤め、54歳で脱サラして養蜂園を始めた。鹿児島県出身で、古里は春になると菜の花畑が広がる蜂蜜作りが盛んな地域だった。「第二の人生」で何をしようか考えたとき、幼い頃に見た風景が目に浮かび、養蜂家への転身を決意した。「家族から反対されるのでは」との心配と裏腹に、娘2人から「やってみたらいいやん」と背中を押された。
親戚の養蜂家に教わり見よう見まねで始めた。レンゲ蜜にこだわり、京田辺市薪の里山に巣箱を置く。6年ほど前、ミツバチがうまく集まらず苦戦していた際、少しでも飛び交うハチを増やそうと、近隣の農家に種を植えてもらうようかけ合った。
レンゲは空気中の窒素を根に蓄えるため、田植え前に土にすき込むと土を肥やす効果があるが、化学肥料の普及などもあってレンゲを植える農家は減っていた。「肥料をどのくらいまけばいいのか分からなくなるから」と断られることもあったが、薪地区で3軒の農家から協力を得られた。今では5軒に増え、計約2万平方メートルの棚田がピンク色に染まっている。
ミツバチは巣箱1段に2万匹が住み着き、2キロ先まで蜜を求めて飛ぶと言われている。薪地区だけでなく近隣の興戸や宮津にもレンゲ畑の協力農家を広げていった。
「20年やっても、まだまだですわ」と頰を緩ませ、今年は21箱の巣箱を見守る。これまでミツバチに刺された回数は「何千万回」。「刺されることより、秋以降にミツバチが減らないようにすることが一番大変」だという。それでも、レンゲの蜂蜜ならではのすっきりとした癖のない甘みの魅力を、一人でも多くの人に知ってほしいと丹精込めて育て、レンゲ畑の前で直売したり、同市三山木中央の農産物直売所「にこにこ市」で販売したりしている。
「きれいなレンゲ畑も、蜂蜜作りも、農家の協力あってこそ。きっとミツバチも喜んでいます」と、棚田の花々を行き交うミツバチを見守り、目を細めた。京田辺市三山木。
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