京都で広がる「独立系書店」 書店冬の時代、生き残るためのアイデアとは
京都新聞 / 2024年3月26日 6時0分
京都市南区の大型書店が先日閉店した。全国的に本屋の廃業が進み、書店にまつわるニュースはうら寂しいものが多い。しかし、市内を歩くと、店主の思いが選書にほとばしる「独立系書店」がそこかしこで誕生しているのに気づく。書店は「冬の時代」? いえ、京都の本文化は不滅です-。
1月、市内有数の大型店アバンティブックセンター京都店が閉店した。3月末には、山科区の山科書店ラクト店が惜しまれつつ幕を閉じる。一般社団法人日本出版インフラセンター(東京都)の調べでは、京都府内の書店数は、2013年の390店が、23年12月に277店となった。全国では1万6千店近かったのが約1万1千店に減った。人口減や高齢化、書籍のオンライン販売の普及など、さまざまな原因が取りざたされる。
書店を取り巻く時勢が厳しく見える一方、増えているのが、個人が小規模で経営する独立系書店だ。明確な定義はないものの、出版社から書店へ本を卸すトーハンなどの大手取次を通さずに運営。小規模出版社の本などが充実しており、オーナーのこだわりや志向がにじむ書棚が特長とされる。
一般的な書店は、大手取次から新刊などを仕入れて並べる。大手出版社から出る作家の新刊を確実に販売できる利点がある。業界独特の商習慣により、売れなかった本は取次に返すこともできる。在庫を抱えなくて済む。
一方、各書店で扱う本が似通い、「金太郎あめ」のようになる面は否めなかった。取次への担保に位置づけられる保証金も多額で、開店前の審査も厳しいという。
開業のハードルを下げたのが、「子どもの文化普及協会」(東京都)など、大手と一線を画す本の卸だ。かつて大型書店に勤め、12年前に「レティシア書房」(中京区)を開いた小西徹さん(69)は「原則的に返本はできないが、保証金が不要で取引開始時の審査がないところがある。一定条件を満たせば、本の送料も負担してくれるなど、小さな書店にとって利便性は非常に高い」と指摘する。
個人でも書店を開きやすい環境が整い、京都市内ではここ1年で少なくとも4軒の独立系書店がオープンしている。いずれもさまざまな取り組みで本好きをうならせている。
「『一般の書店にない品ぞろえで、ほしい本がたくさんある』と言ってもらえる」。昨夏開店した左京区の「シスターフッド書店Kanin(カニン)」の共同経営者の1人、井元綾さん(48)は話す。新刊や古書計600~700冊のうち、半分程度をフェミニズムやジェンダー関連が占める。女性作家の作品も意識的に増やしている。「占領下の女性たち」「動物×ジェンダー」…。手に取りたくなる書籍が並ぶ。ジェンダーなどの専門書店は関西で唯一という。「『分からない』という人もいるが、はまる人ははまる」とほほ笑む。
大学が多い土地柄のため、学生や教員らが足を運ぶ。開店のひとつのきっかけとなった本「女の本屋の物語」の著者中西豊子さんも来店したという。
品ぞろえだけでなく、定期的に開く読書会も好評だ。性暴力や、それにまつわる二次加害などさまざまなテーマごとに参加者が本を持ち寄ったり、ボーボワールの著書で女性解放運動の発展につながった「第二の性」について読み込んだりしている。関西一円から参加者があるという。「難解な本でも頑張って読む機会になる。持ち寄りならば、自分が知らない本に出合える。訪れた人同士につながりが生まれることもある。書店を開いてよかったなと思う」と語る。
フェミニズムやジェンダーは盛り上がった後に下火になり、また火が付くといった揺り戻しを繰り返しながら社会は一歩ずつ前進してきた。古書の買い取りなどによる品ぞろえの強化や多様な企画を通じ、書との出合い、書を愛する人同士の出会いが生まれる場として育てていく。
1月に、上京区の歴史を感じさせる町並みの一角に生まれたのは「余波(なごろ)舎/NAGORO BOOKS」。西陣織の職人が起居した町家の2階部分を生かした。余波とは、風がやんでも波が残っている状態を指す。読書の味わいも、読んだ直後と、時間を経た時で異なるところが、余波と似ていることなどから名付けたという。
2月に訪れると、批評家佐々木敦さんが小説家保坂和志さんについて書いた希少な本が並び、香港の歴史や文化などに関する本や雑貨をそろえたフェアが開かれていた。
1階に料理店があることから料理本も充実。哲学や人文、小説など、ジャンルは幅広い。SNSなどで評判が広がり、30~40代の来店が多い。共同経営者の1人の涌上昌輝さん(37)は「作家や出版社との直のつながりを生かしつつ、新しいことにアンテナを張っている。試行錯誤しつつ、自分たちで扱う必然性がある本を扱っていきたい」と話す。
絵画などテーマに沿ったフェアを定期的に開くほか、古本市の開催も将来的に検討。「いろいろな人に使ってもらえ、僕たち自身も学びがある場所にしていきたい」と意気込む。
23年オープンの伏見区の「古本&読書カフェ 大力餅」は、読書を楽しめるよう趣向を凝らす。照明を落として、じっくり本を楽しんでもらう「夜カフェ」だ。古書の販売も始め、本との多彩な出合いを促す。
京都には学生が15万人おり、研究者も多く、知を求める層は分厚い。「京都の人はとても本を読み、本好きの土壌がある」(余波舎の涌上さん)と言われるだけに、今後も独立系は増えそうだ。
ただ、一部では先行きに不安を示す声もある。個性的だったはずの独立系が没個性化していくという懸念だ。レティシア書房の小西さんは「店に行って棚を見ると、これは、あの取次から仕入れているなと分かる。最近は『この本はどこからやろう』と思うようなことは減った」と明かす。
ある日にはこんなことがあった。開業希望の人がレティシア書房にやってきて、棚を撮影したいと言われた。聞けば、選書の参考にするためだという。「読んでもいない本を、他店のまねをして置いても意味はない。自分のスタンス、世界観を大事にしなければいけない」と考える。
本を読み、映画を見て、盛んに人と交わり、感性を磨く。自分のセンスを信じつつ、人の意見も取り入れる柔軟さも併せ持ちながら、選書に生かしていくのが重要とみる。「没個性になるのをいかに防ぐか。中途半端では時流に飲み込まれる。独立系はこれから、『次の個性』が求められていく」と見込む。
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