社説:水俣病発言制止 環境省の姿勢表す失態
京都新聞 / 2024年5月10日 16時5分
「水俣病は終わっていない」。切にそう訴える被害者たちに、向き合わない国の姿勢をさらけだした失態である。
水俣病の患者・被害者らが、伊藤信太郎環境相との懇談会で、発言中にマイクの音を切られ、遮られた。
持ち時間を超えたためと環境省職員は釈明するが、あまりに形式的で不遜な対応ではないか。
被害者らが強く抗議し、批判の世論が広がる中、1週間後になって伊藤氏は被害者側を訪ねて直接謝罪し、改めて懇談するとした。
水俣病が公式確認されて68年たっても、病の苦しみは消えず、被害者救済策からもれた人たちが国などを訴えた裁判が続いている。
伊藤氏が「気持ちに沿えるよう環境行政を進める」とした反省の弁も形だけでないなら、全面救済に向けた行動で示すべきだ。
懇談会は熊本県水俣市での犠牲者慰霊式後に設けられ、水俣病患者連合の松崎重光副会長ら2人の発言が遮られた。松崎さんは、患者認定されないまま昨春に亡くした妻について「『痛いよ痛いよ』と言いながら死んでいきました」と訴えていた途中だった。
環境省は1団体3分の発言時間は例年通りとするが、告知なく遮断した。無念さを訴える生々しい告発に何も感じなかったのか。
そもそも各3分は短く、8団体計30分足らずでは懇談の体をなしえない。職員は伊藤氏の帰りの列車時刻に合わせ切り上げたとみられ、恒例セレモニーのようにやり過ごしてきた省内意識が透ける。
伊藤氏はその場で抗議を受けながら「(遮断を)認識していない」と立ち去った。その後も事務方に責任を押し付け、被害者らの不信を増幅させた。環境行政を担う大臣としての資質を疑う。
水俣病は「公害問題の原点」である。戦後の経済成長を優先した公害を防ぐため、1971年に前身の環境庁発足につながった。
だが国は患者認定を複数の症状のある人に厳しくし、多数が救済外となった。95年と2009年に一時金を支払う「政治決着」も図ったが、出生年や居住地の線引きで数を抑え込んだ。掲げた「あまねく救済」に程遠い現状が続く。
昨秋以降の3地裁判決とも、対象外とされた人の罹患(りかん)を認めた。
国は控訴中だが、高齢化する被害者の実情と訴えを受け止め、救済制度の不備を解消することこそ責務である。15年間も棚上げしている「水俣と周辺住民の健康調査」にも踏み出すべきだ。
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