社説:適性評価制度 乱用の懸念が拭えない
京都新聞 / 2024年5月15日 16時0分
恣意的な運用や人権侵害の懸念が残されたままだ。
機密情報の保全対象を経済安保分野にも広げる重要経済安保情報保護・活用法が成立した。
先端技術や重要インフラなどにかかわる重要情報の取り扱いを、国の身辺調査を通過した人のみに認める「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」が導入される。公布から1年以内に施行する。
防衛や外交などに関する情報の取り扱いを定めた特定秘密保護法の経済安保版である。これまでの公務員だけでなく、広く民間企業の社員や大学の研究者なども調査対象になる。
家族や親族の国籍、犯罪歴、海外渡航歴、精神疾患、飲酒の節度、借金などが調査されるとみられる。政府答弁では、性的な交友関係を含め、幅広くプライバシーを探る可能性も言及された。
だが、一方で政府は、調査を誰が担い、どの範囲まで、どんな基準で調べ、情報の保管はどうするのかなど、基本的な事項を明かさなかった。
評価を受けるのは本人の同意を前提とするが、拒否すれば研究や開発から外される恐れがあり、事実上の強制や不当な扱いを防ぐ仕組みが不十分だ。
新法で政府は安保上、秘匿すべき情報を指定し、情報漏えいには5年以下の拘禁刑という重罰を科す。恣意的な指定や過剰な指定で国民の知る権利を脅かしかねないのに、運用基準もあいまいなままである。
岸田文雄首相は、基準作成を有識者の検討会に委ねると繰り返した。野党からは明確化を求める質問が相次ぎ、衆院では機密情報の指定や解除、適性評価の実施状況を国会に報告する制度を盛り込む修正が行われた。しかし、これで透明性を確保できるかはおぼつかない。
国会軽視が目に余るにもかかわらず、最終的に賛成に回った立憲民主党や日本維新の会などの行動は、理解に苦しむ。
政府は、経済安保分野の機密保全制度を導入している欧米各国との情報共有や共同事業のために適性評価制度は不可欠と強調する。
しかし、欧米が導入している、評価に不服があれば政府から独立した機関に申し立てることができる仕組みは盛り込まなかった。
政府による一方的な情報管理体制ばかりが強化される仕組みは、民主主義にふさわしくない。国会による実効性のある監視が働くようにせねばならない。
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