社説:iPS生殖細胞 倫理を踏まえルール整備を
京都新聞 / 2024年5月27日 16時0分
ヒトの精子と卵子の人工的な作製が現実味を帯びてきた。
京都大の斎藤通紀教授らの研究グループが、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から精子と卵子の元になる「前精原細胞」と「卵原細胞」を効率よく大量に作ることに成功した。
生殖細胞ができるメカニズムを詳細に分析するには、大量の細胞が必要となるため、関連の研究を大きく前進させる成果だという。
今後、ヒトiPS細胞から精子や卵子とみられる細胞ができた場合、機能を確認するためには「生命の萌芽(ほうが)」とも言える受精卵を作る必要がある。その是非が大きな課題となる。
さらに技術的には、その受精卵から子どもを誕生させることも視野に入る。
現在はどちらも国の指針で禁じられている。研究の進展と今日的な生命観や倫理を踏まえ、新たなルールづくりに向けた十分な議論が必要だろう。
晩婚化の影響などによる不妊治療のニーズの高まりを受け、生殖細胞を対象とした研究への期待は増している。
とりわけ、斎藤教授らのグループの研究は、マウスiPS細胞由来の卵子で子を生ませた2012年の成果の発表以降、世界的に注目されてきた。
ヒトでも同様の技術が開発できれば、精子や卵子ができない人でも血液などからiPS細胞を作製し、自らの遺伝子を持った子どもを持つことが理論上は可能となるからだ。その延長には1人の細胞から精子と卵子を作るといった想定もできる。
ただ、こうした技術の応用は、「生命の創出」という人間の尊厳にかかわる領域に踏み込むことにほかならない。
臨床試験の実施にも大きなリスクがつきまとう。このため、倫理面と安全面の両面から慎重な検討が欠かせない。
現在、内閣府の生命倫理専門調査会が、ヒトiPS細胞由来の精子や卵子から受精卵を作製することの是非について議論している。
通常の精子や卵子の場合は、研究のために受精卵を作ったり、受精後14日まで培養したりすることが認められている。iPS由来の細胞についても研究の目的を精査した上で、規制を一定程度、見直すことは考えられよう。
京都新聞が16年に実施したアンケートでは、不妊症のカップルがiPS細胞由来の生殖細胞を用いて子どもを誕生させることについて、「認める」と答えたのは市民の約70%に上った一方で、研究者では約56%にとどまった。専門的な見地から、リスク面を深く考慮したためだと思われる。
研究者はiPS細胞を生殖医療に用いる上でのさまざまな課題を積極的に、分かりやすく提示してもらいたい。国民的な理解を図りながら、法制化も含めた幅広い検討が求められる。
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