社説:永住権の厳格化 差別の制度化許されぬ
京都新聞 / 2024年5月30日 16時0分
外国人労働者への差別を制度化することは、到底看過できない。
技能実習に代わる新制度「育成就労」創設を柱とする入管難民法改正案などが衆院を通過し、参院で審議入りした。税金や社会保険料の納付などを怠った外国人の永住許可を取り消せるようにする法案を抱き合わせていることに、懸念の声が高まっている。
現在は1年超の実刑判決で永住資格を失うが、新制度では1年以下の懲役や禁固刑も対象にする。
政府は衆院の審議で、外国人の永住者が増える可能性を踏まえて「永住許可の適正化を図る」と説明したが、「適正化」の中身について説得力のある事実は示せないままだ。
悪質性を伴わない「微罪」も外国人には許さない、という姿勢だけが目立つ。偏見がひそむと言わざるを得ない。在留カードの不携帯など入管法の義務規定違反も対象となり、外国人を狙い撃ちにした警察の取り締まりの強化につながらないかとの不安も聞かれる。
税や社会保険料の未納は、それぞれの制度に督促や差し押さえなどの対応策がある。外国人にだけ懲罰を追加する必要はなく、理不尽だろう。
永住許可の運用の厳格化は、技能実習制度の見直しを議論した有識者会議で議題にも上がっていなかった。昨年12月の自民党の提言を受けて法案化されたという。
外国人労働者の定着を図る育成就労は移民の受け入れにつながる、との拒否感が一部保守層にある。こうした声に配慮したのか。
本来なら、人口急減と少子高齢化の現実を直視し、実質的には解禁している移民のあり方に向き合い議論すべきだ。労働力の確保にわい小化した場当たり的な対応は、差別を助長しよう。
憲法は法の下の平等を明記し、日本が批准している国際人権規約も、労働者の権利や社会保障を外国人にも等しく保障するよう求めている。人権の原則に反するような制度づくりは許されまい。
育成就労そのものにも課題は多い。技能実習と違い職場を変える転籍を認めるが、原則3年就労のうち1~2年後からだ。日本語能力試験のハードルも組み込まれ、従来同様、職場に縛りつける力が働くのではないか。
岸田文雄首相は国会で「日本を外国から選ばれる国にする」と繰り返す。だが、法案は外国人の暮らしを脅かすと国際的な批判を浴びかねない。参院は良識ある判断を示してほしい。
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