社説:強制不妊の上告審 人権救済の判断に期待する
京都新聞 / 2024年6月4日 16時0分
「戦後最大の人権侵害」の被害者救済に向け、最高裁には「人権のとりで」にふさわしい判断を期待したい。
旧優生保護法(1948~96年)の下で不妊手術を強いたのは憲法違反だとして、障害者らが国に損害賠償を求めた5件の訴訟の上告審が大詰めを迎えている。先月末に開かれた弁論を踏まえ、来月3日に統一判断が示される見通しとなった。
焦点は、不法行為から20年の経過で原告の損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用するかどうかだ。
人の命に優劣をつける優生思想に基づき、人の生殖機能を奪った政策が憲法違反で非人道的であることは、2018年以降に各地で起こされた裁判の判決で定着したといえよう。
福岡地裁で先週にあった訴訟判決も、不妊手術の強制を違憲とし、除斥期間の適用は「正義、公平の理念に反する」として国に賠償を命じた。これまでに地裁と高裁で出された計21件の判断のうち、違憲判決は19件になった。
国側は一貫して、手術時を除斥期間の起算点とすれば、提訴段階で20年以上が経過している被害者に損害賠償請求権はない、と主張してきた。
今回、最高裁が審理対象にした5件の高裁判決のうち、国の主張を認めたのは1件で、4件は除斥期間の適用を退けた。
22年2月の大阪高裁判決は、除斥期間の起算点を、旧法が母体保護法に改正された1996年とすべきとして、適用を違法とした。その後も同様の判断が積み重ねられている。
理不尽な政策と社会の差別の中、被害者や家族は羞恥心や自責の念を抱かされ、相談などへのアクセスや名乗り出が難しい実情があった。被害の訴えが20年以上後になった責任は被害者ではなく、国にあることは明らかである。
国は「例外を認めれば法秩序が不安定になる」と主張するが、国家の過ちと不作為の被害者を放置する理由にはなるまい。
そもそも除斥期間の一律的な適用は、過去の最高裁の判断に基づいており、戦後補償や公害などの訴訟にも通じる「時の壁」を定着させた。
だが、今回の弁論で被害者たちは「自分で決めたかった」「最後の希望です」などと声を震わせて訴えた。その叫びを受け止めねばならない。
強制不妊手術の被害者に、本人の申請で一時金(320万円)を支給する法律が19年に成立したが、申請者数は伸びない。裁判では一時金の4倍以上の慰謝料が認められており、救済法の不十分さは明らかだ。
被害者は高齢化し、残された時間は多くない。原告団や弁護団などは全ての被害者の救済を求めている。最高裁は期待に応えるとともに、行政、立法府も対応が問われている。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
旧優生保護法のもとで強制不妊手術「私は国を恨みます…勝っても恨みます」札幌の原告男性が3日の最高裁判決を前に思いを語る
北海道放送 / 2024年7月2日 19時21分
-
「時の壁」越えられるか 旧優生保護法訴訟、3日に最高裁判決
産経ニュース / 2024年7月2日 18時38分
-
強制不妊訴訟、3日に最高裁判決 「時の壁」除斥期間適用が焦点
毎日新聞 / 2024年7月1日 19時31分
-
【強制不妊裁判】7月3日最高裁判決 「勝訴を期待」各地で係争中の原告が会見で訴え
RKB毎日放送 / 2024年6月24日 16時57分
-
「父を殴った原告の気持ち 今なら分かる」 聴覚障害のある女性が法廷で語った強制不妊手術のつらさ
RKB毎日放送 / 2024年6月14日 16時51分
ランキング
-
1大分県宇佐市の強盗殺人、死刑判決の被告側が即日控訴…裁判長「被告が犯人と優に認められる」
読売新聞 / 2024年7月2日 22時9分
-
2マンションから転落疑いの女児死亡 意識不明で救急搬送 札幌
毎日新聞 / 2024年7月2日 21時19分
-
3能登半島地震 災害関連死 氏名初公表
テレ金NEWS NNN / 2024年7月2日 19時28分
-
4かすむ「ポスト岸田」上川外相 米兵事件巡る批判で「洋平さんと同じ道」
カナロコ by 神奈川新聞 / 2024年7月2日 22時17分
-
5TDR、ショーキャストにも「空調服」導入進む X称賛の取り組み、広報「今年度は対象を拡大」
J-CASTニュース / 2024年7月2日 17時38分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)