社説:飯塚事件の再審 なぜ結論変えず棄却か
京都新聞 / 2024年6月6日 16時5分
刑事裁判の原則「疑わしきは被告人の利益に」に照らし、裁判所は証拠の検討を深めるべきだったのではないか。
福岡県飯塚市で1992年、女児2人が殺害された「飯塚事件」で2006年に死刑が確定し、08年に執行された久間三千年元死刑囚=執行時(70)=の第2次再審請求審で、福岡地裁は請求を棄却する決定をした。
再審開始を認めれば、死刑執行後では初のケースとなるため、判断が注目されていた。
焦点は、弁護側が提出した、被害女児を目撃したという男女2人の「新証言」の信用性だった。
確定判決で被害女児を最後に見たとされた女性は、実際に見たのは当日でなく、警察に促されて記憶と異なる供述をしたと証言。男性は、元死刑囚と違う外見の男が運転する車に被害女児に似た2人が乗っていたのを見たと述べた。
だが地裁は、捜査機関が女性の記憶に反する調書を作成する動機は見いだせないなどとして、証言は「信用できない」と断じた。
元死刑囚は一貫して容疑を否認していたが、確定判決は目撃証言や血痕のDNA型鑑定といった複数の状況証拠から有罪を導いた。
その後、1次請求審の地裁決定は、DNA型が一致したとの鑑定結果は当時の精度から「直ちに有罪の根拠とできない」と証拠力を否定。ただし、他の証拠で十分立証されているとして再審請求を退け、高裁、最高裁も支持した。
今回の地裁決定も「高度の立証がされている結論は揺るがない」としたが、直接証拠がない中、DNA鑑定の評価に続き、目撃証言にも疑義が生じたのに、結論の揺らぎがないのはなぜか。再審の門を閉ざす納得のいく説明が要る。
再審制度を巡っては、これまで死刑判決の確定後に再審開始を決めた事件は5例ある。うち4例が無罪となり、袴田巌さんの再審公判は5月に静岡地裁で結審した。
滋賀県の日野町事件では、無期懲役で服役中に死亡した元受刑者の遺族の訴えを受け、昨年2月、大阪高裁が再審開始を決めた。
これら再審裁判では現行制度の問題点が指摘された。捜査機関が独占する証拠の全面開示と、検察の不服申し立ての禁止など、見直すべき点は多い。冤罪(えんざい)被害の速やかな救済へ再審法改正が急務だ。
確定判決から2年後に死刑執行された飯塚事件で再審が認められれば、死刑制度の是非に議論が及ぶのは必至だった。地裁決定に、配慮はなかっただろうか。
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