社説:国の半導体支援 丸抱えのリスク説明を
京都新聞 / 2024年6月7日 16時0分
次世代半導体の開発、量産をめざすラピダスへの融資に、政府が保証をつけるなどの支援方針を経済産業省が発表した。
ラピダスの量産開始までには5兆円の投資が必要とされる。国が債務を保証することで、金融機関や企業からの資金調達を円滑にする狙いがある。
半導体は、自動車や通信、人工知能(AI)まで、先端分野の性能向上に不可欠な「産業のコメ」とされる。
国産化に向け、政府はすでにラピダスに総額9200億円の補助金支出を決めている。その上の債務保証である。現時点で民間の出資は100億円に届いていないという。経済安全保障上、重要な戦略物資に位置づけるとはいえ、国の丸抱えぶりには違和感を抱かざるをえない。
融資の返済が困難になれば、国が肩代わりする可能性が出てこよう。尻ぬぐいは国民負担になる。そこまで支える意義と「勝算」があるのか。国民への十分な説明がないまま、大盤振る舞いは許されまい。
経産省は、ラピダスが手がける超微細半導体は車の自動運転などに不可欠で、巨額の補助金は事業収益による将来の税収増で回収できると説明する。
だが、海外勢に先行を許している分野であり、どこまで挽回できるのかは不透明だ。ラピダスの開発・製品の競争力や生産受注、取引先拡大の見通しは未知数なのが実情だろう。
問題は、かつての半導体立国の復権を目指す「国策」が失敗を繰り返したのに、十分な分析がなされているとはいえないことだ。
経産省の旗振りの下、日立製作所やNECの半導体事業が統合した「エルピーダメモリ」に政府は2009年、300億円の公的資金を投じたが、3年後に破綻し、大半が国民負担となった。
半導体需給の先行きを見通すのは難しいとはいえ、巨額支援の前に、過去の失敗を反省し、教訓を生かすことが欠かせない。
将来的に収益が見込めるなら、民間の資金や人材が自然に集まるはずだ。国の前のめりの関与は産業構造をゆがませかねない。
政府は熊本県の台湾積体電路製造(TSMC)の新工場や広島県の米マイクロン・テクノロジーの工場にも巨額の補助金を投じる。国内経済や雇用、税収などにどう波及するか、リスクの説明を含め、産業振興と財政の規律の兼ね合いについて十分な議論と見通しが求められる。
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