社説:ひきこもり支援 当事者との「伴走型」へ転換を
京都新聞 / 2024年6月8日 16時0分
ひきこもりの人や家族への支援が転換点を迎えている。
就労を中心とした従来の「問題解決型」から、本人の視点に立った「継続的な寄り添い」に軸足を置く流れである。
行政はノウハウを持つ民間団体や先進自治体と連携を強め、孤立する当事者らの環境改善につなげてもらいたい。
昨年3月公表の内閣府調査では、会社や学校に行かず、自宅からほとんど出ない「ひきこもり状態」の人(15~64歳)は推計で146万人。この年代の約50人に1人に上る。
うち若年層(15~39歳)の63%は働いた経験があり、職場の人間関係などが要因とみられる。中高年(40~64歳)では半数超が女性で、男性が多いとのイメージは見直された。
ひきこもりという言葉は1980年代末から使われ、当初は不登校の延長で若者の問題とみられた。就職氷河期では仕事に就けない若年無業者などと同一視されたり、ひきこもりは「甘え」「自己責任」と自立を強いたりする風潮や誤解も根強い。
国の支援も就業や精神疾患の治療が中心で、多様な困難を抱えた人が取り残されてきた。近年は、80代の親と暮らす50代のひきこもりの人が困窮する「8050問題」も深刻だ。
内閣府は推計を踏まえ、昨年度に全自治体を対象にした初のアンケートを実施。当事者や家族を支援する指針(マニュアル)を本年度中に作るという。都道府県や政令指定都市などの相談窓口「ひきこもり地域支援センター」での活用を想定する。
現時点の骨子によれば、ひきこもりは生活難やリストラ、いじめといった問題から身を守ろうとし、誰にでも起こり得る社会全体の課題と位置づける。
対象は「何らかの生きづらさを抱え、他者との交流が限定的」「生活上の困難を感じ、支援を必要とする状態」の人や家族とし、期間は問わない。
支援について「ひきこもり状態でも尊厳ある存在」とし、「本人の意思を尊重」するという。国連の障害者権利条約や、1月施行の認知症基本法などに通底する「当事者目線」を重んじる潮流を踏まえていよう。
いずれも妥当な認識だ。さらに肉付けした上で、指針を行政にとどめず、広く国民に周知することも考えてはどうか。
東京都江戸川区では「ひきこもりサポート条例」を制定。当事者らの声を聞き、就労体験や居場所づくり、対話交流会の開催などに取り組む。ひきこもり女子会など民間の活動も広がる。
一方で相談窓口を設けても、「何かあったら病院へ」との対応にとどまる自治体も多い。
4月には孤独・孤立対策推進法も施行された。
自治体間の格差を埋め、本人や家族と長期伴走する支援に向け、専門人材の育成や財政措置などに国は踏み出すべきだ。
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