社説:京都観光の混雑 対症療法の小出しでは
京都新聞 / 2024年6月14日 16時5分
訪日客らの急増が京都の市民生活に影響するオーバーツーリズム(観光公害)を抑えるには、対症療法にとどまらない取り組みが欠かせない。
京都市バスでは今月、京都駅と東山方面を結ぶ「観光特急」の運行が始まった。運賃は均一区間の倍以上となる500円に設定している。旅行客を誘導して生活路線の混雑緩和を図るという。
市民が乗車しにくいほどの混雑は、新型コロナウイルス禍前にも発生していた。以前あった均一運賃の「急行」と、今回の特急は経路が大きく変わらない。渋滞の影響で思うように利便性が高まっていないのも同じようだ。
観光バスが路上に滞留する問題も再燃している。同じ業者が繰り返す悪質な例は看過できない。だが、市が市民に通報を求める手法は分断を招く恐れもある。効果と副作用を見極める必要があろう。
市は今秋から嵐山の渡月橋で流入抑制を取り入れる方針で、国は東山区でコイン駐車場の事前予約システムの運用を計画する。
ただ、一連の対策が小出しになっている感は否めない。2月に就任した松井孝治市長は、オーバーツーリズム対策の検討チームを発足させた。値上げ方針の宿泊税を含め、観光政策の包括的なビジョンを再構築すべきではないか。
かねて課題となってきたのは、観光客の場所と季節、時間の「分散」だが、市域にとどまっており、抜本的な改善には程遠い。
京都府とは周遊ツアーの開発に乗り出す。「おすそわけ」の発想ではなく、府域の観光を底上げする大きな視点を求めたい。
前例のない取り組みを進めるには財源が不可欠だ。国は京都などをオーバーツーリズム対策のモデル地域としているが、支援が十分とは言えない。
日本からの出国者を対象に徴収している国際観光旅客税は、2023年度に400億円規模となり、前年比3倍の見通しという。こうした財源を自治体が自由に活用し、機動的に施策を組み立てられる制度を市が提案してはどうか。
京都市内の主要ホテルに宿泊した外国人客の割合は4月に初めて7割を超える一方、国内客数は落ち込む傾向にある。
コロナ禍前、入洛客の8割は国内客が占めていた。過剰な混雑で敬遠される流れが続けば、長期的には大きな損失だ。「持続可能な京都観光」を掲げるなら、市と業界は危機感を高め、対処せねばならない。
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