落語やコント、常磐津…滋賀・大津で「舞台を生み出す」男性 原点は早稲田大時代の「落研」に
京都新聞 / 2024年6月15日 9時0分
落語や常磐津(ときわづ)、コントなどプロを招いた鑑賞会や体験会を大津市内の小中学校を中心に催す。「大津は京都と比べて何もない、と幼いころからよく聞いた。実は大津にゆかりのある芸能はとても多く、歴史の深いまちなんです」
寺田悠太(てらだ・ゆうた)さん(34)は、幼少期から吉本新喜劇やバラエティー番組、海外のコメディー映画に親しんだ。打出中(滋賀県大津市)から東山高(京都市)、早稲田大に進学。入学してすぐに挑んだ演劇サークルの即興劇では、体が動かなかった。「お笑いや映画をたくさん見て知っているはずなのに、自分の中に表現できるものがなかった。自分はなぜここにいるんだ、とショックだった」と振り返る。
半年かけて芸能を突き詰めた結果、たどり着いたのは落語。奥深さにのめり込み、同大学の落語研究会の扉をたたいた。活動の中心である落語会の企画と運営を重ねるうち、「自分は出演する側ではなく、芸能を支える側だ」と確信した。
大学卒業後、東京のIT企業に就職した。2012年、大津で果物屋を営む父親から、店舗がある菱屋町商店街で落語会を開くよう頼まれた。関西圏の大学の落研に所属する学生らに声をかけて実現させた。「落語はプロがやるものと決めつけていたが、地元の人が心から面白がって笑う姿を見て感じるものがあった」。それから約3年間、東京と大津を行き来し、年4回の開催を続けた。
退職して大津へ戻ってほどなく、新型コロナウイルスがはやり始めた。行動が限られる中で注目したのもやはり落語。江戸時代に生まれた演目「宿屋町」や「こぶ弁慶」、「走井餅」には、宿場町として栄えた大津が登場する。「生まれ育ったまちが芸能の線上にあることが不思議だった。大津というまちに一体何があるのか気になった」という。
21年、落語家や常磐津のプロとして活躍する落研時代の仲間とともに「大津芸能倶楽部」を立ち上げた。「自分のかなえたい夢は東京にあると思って一度は地元を離れたけれど、表現したいものは結局大津にあった」と笑う。大津市内や県のアンテナショップ「ここ滋賀」(東京・日本橋)などで子ども向けの出前授業やワークショップのほか、落語会を催す。22年には大津絵を題材にした落語と常磐津の作品づくりに携わり、好評を博した。
「作品をつくり、舞台を生み出すのが面白い。大津で生まれた芸能やまちの魅力を発信し、次世代に伝えていきたい」。夢は広がる。
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