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社説:犯罪被害給付金 一歩前進ながら課題が残る

京都新聞 / 2024年6月16日 16時0分

 事件で被った苦しみに寄り添う支援が求められよう。

 政府は、犯罪の被害者や遺族に国が支給する給付金を増額する法施行令改正を決定し、きのうから実施した。

 給付額を底上げし、遺族に支払う最低額を現行の320万円から、多くのケースで1千万円を超えるようにした。

 子どもや少ない収入の被害者が死亡した場合、給付額が低くなる問題の是正を進め、支援の拡充につながる前進といえる。

 ただ今回、被害者らが求めてきた過去の事件に遡及しての適用などは見送られた。現に心身や生活の面で苦しい状況にある人たちをいかに支えていくか。残された課題は多い。

 国の犯罪被害者等給付金は、殺人など故意の犯罪で死亡した被害者の遺族をはじめ、重傷や障害を負った被害者の経済的・精神的負担を緩和するため、1981年から支給されている。

 遺族への給付金は、被害者が得ていた収入や年齢に応じた基礎額と、生計を維持していた遺族の数から算出される。3年前の大阪北新地ビル放火殺人事件では、復職に向け準備中だった犠牲者が多く、無職扱いにされるなどして少額にとどまることが問題となっていた。

 今回の改正は、基礎額の最低額を引き上げ、受給者が配偶者、子ども、父母の場合は加算する仕組みを新設した。また、犯罪で障害を負った被害者への給付金や、傷病による休業加算の最低基礎額も増やした。他の公的給付金である公害健康被害補償制度や、労災制度などの水準を参考にしたという。

 事件の遺族給付金は昨年度の平均額が約707万円だった。改正後、全体の給付額は約13億8千万円から数億円増えると見込まれている。

 ただ、交通死亡事故に支払われる自動車損害賠償責任(自賠責)保険は、将来得られる「逸失利益」を基に平均約2500万円とされる。3倍超あった格差をどこまで埋められるか、算出方法の見直しも課題だろう。

 実際、被害者や遺族が加害者から民事上の賠償金を受け取れるケースはまれだ。今年初めの警察庁調査で、事件に関連した金銭的補償を「受けていない」とした人は約8割に上った。

 加害者の賠償金を国が立て替える制度の導入が見送られたのは残念だ。被害者が直接請求するのは財産調査の難しさや、逆恨みの恐れなど負担が大きい。

 財源の確保や他制度との公平性が課題というが、犯罪で大切な人を奪われ、困窮する理不尽の救済に手を尽くすべきである。

 被害者への見舞金や生活支援を条例化する自治体も広がっている。居住地で格差が開かぬよう国レベルで給付や援助策の充実が欠かせない。自治体と警察、弁護士会などで連携しての相談・支援体制の構築なども、着実に進める必要があろう。

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