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社説:規正法成立 いったい何を改革したのか

京都新聞 / 2024年6月20日 16時0分

 こんな「改革」の名に値しない法改正では、戦後繰り返された「政治とカネ」の不祥事を断ち切れるとは思えない。

 改正政治資金規正法が成立した。裏金事件をきっかけに自民党の根深い金権体質が問われたにもかかわらず、企業・団体献金、政治資金パーティーの開催、政策活動費といった「不正の温床」を全て残した。まさに小手先の見直しである。

 昨秋に最大派閥の安倍派でパーティー券収入を不記載・虚偽記入していた法令違反が発覚して以降、自民の当事者意識の低さと問題の矮小(わいしょう)化が際立った。

 事件の全容解明にも抜本改革にも一貫して後ろ向きで、国会会期が残り1カ月余りになって、おざなりな改正案を提出した。

 最大の原因は、岸田文雄首相の指導力の欠如にあるのは言うまでもない。「火の玉になる」との言葉とは裏腹に、国会質疑では空疎な答弁を重ねた。党内のパーティー自粛や派閥解散、現職首相初の政治倫理審査会出席は、その場しのぎの奇策でしかなかった。

 4月の衆院3補選で自民「全敗」となった民意が示したように、政治への信頼回復どころか、不信を深めた半年といえよう。

目立つ「検討」「先送り」

 改正法は2026年1月に施行される。約1年半も先で、肝心の部分は先送りが目立つ。すでに「抜け穴」も露呈している。

 典型的なのは、使途の公開が不要で、党幹部が億単位の「つかみ金」を選挙対策などに使ってきた政策活動費である。

 「10年後」とした領収書の公開は、大半が黒塗りの可能性もあるという。不正が発覚しても規正法違反の時効が5年のため実効性が伴わず、支出を監査する第三者機関の権限も検討にとどまる。年間の上限額や公開方法など制度の柱も固まっていない。

 パーティー券購入者の公開基準は、現行の「20万円超」を「5万円超」に引き下げるが、小分けやオンライン形式の開催、任意団体の主催で公開の対象外にできる。

 収支報告書のデジタル化も透明性を向上させる仕組みが担保されていない。提出時の「確認書」交付を義務付けて議員の罰則を強化したというが、うその説明を受けたなどと言い逃れの道が指摘され、本来の連座制には程遠い。

 公開基準の緩い政治団体へ資金を移す手口にも厳しい歯止めをかけなかった。

付則で骨抜きの懸念

 不正の再発が懸念されるのは、30年前の平成の政治改革で積み残した課題が、裏金事件につながった流れがあるからだ。

 リクルート事件などをきっかけにした改革では、税金が原資の政党交付金制度を設ける代わりに、企業・団体献金を5年後に禁止すると規正法の付則に盛り込んだ。

 結果的に骨抜きにされた上、パーティー券販売でカネを集める抜け穴を残し、公金と献金を二重取りする悪弊が続いている。

 今回の改正法で、政策活動費に関する検討事項を本則でなく「付則」にとどめ、先送りした手法が重なる。何より、自民は企業・団体献金禁止に終始反対し続けた。

 岸田氏は法案成立後、記者団に「実効性ある制度になった」と述べたが、抜け穴はふさがず、ブラックボックスも温存する。いったい何を「刷新」したというのか。

 さらに自民が背を向け続けたのが、事件の全容解明である。

真相を究明せぬまま

 議員約90人に裏金が判明し、党への自己申告分だけでも5年間で6億円近くに上る。このうち衆参両院の政倫審に出席したのはわずか9人で、安倍派と二階派の幹部は「知らぬ存ぜぬ」を繰り返した。野党が求めた証人喚問も当人らは拒み続けた。

 党内の調査や処分も甘く、安倍派元会長で疑惑の中心にいた森喜朗元首相には、岸田氏が電話をかけただけのようだ。

 始まった公判で安倍派の会計責任者は、パーティー券収入の還流再開について、派閥幹部の協議で判断したと語った。政倫審に出た議員の弁明と明らかに食い違う。検察は再捜査すべきだろう。幹部らも改めて説明責任を免れない。

 平成の改革の前後、自民は2度の下野を経て、在職日数が戦後最長となった故安倍晋三元首相による「1強」政治に安住した。

 その安倍氏が率いた派閥で組織的な裏金づくりが続いた事実こそ、特権におごる自民政治の根腐れを物語っているのではないか。

 対峙(たいじ)すべき野党は「多弱」から抜け出せず、今回も結束して改革を実現させる迫力を欠いた。

 特に日本維新の会が、「抜け駆け」のように自民との合意に走りながら、衆参の採決で賛否が分かれた迷走ぶりにはあきれる。

 令和の「政治改革」は緒に就いたばかりである。

 与野党は改正法の検討課題を先送りすることなく、政策をゆがめる企業・団体献金の禁止をはじめ、実効性の確かな抜本改革に踏み込むべきだ。

 後を絶たない政治とカネの不正が、有権者の政治離れを招く悪循環を後世に引き継ぐわけにはいかない。

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