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社説:国立大の授業料 進学希望を阻む値上げ

京都新聞 / 2024年6月21日 16時0分

 国立大の学費値上げを巡る動きが関心を集めている。

 授業料は20年近く据え置かれてきたが、東京大が値上げの是非を検討している。中教審の特別部会は授業料を含めた教育費負担について年度内に答申する方針だ。

 国立大は授業料を比較的低く抑え、幅広い世帯の子どもが高等教育を受ける機会を保障してきた。人材育成の根幹に関わり、奨学金など支援制度の拡充を含めた議論が欠かせない。

 「国立大の授業料を年150万円程度に」―。発端は伊藤公平慶応義塾長の発言だ。中教審特別部会で3月、文部科学省令で定める授業料「標準額」の53万5800円から約3倍増を提言した。

 少子化で人件費や研究費の確保に悩む大学が多い中、学費が割高となる私立大や公立大との公平な競争環境を整えるのが狙いのようだ。学生負担に転嫁するのではなく、政府に私大などへの補助金を増やすよう提案すべきであろう。

 高等教育の無償化を目指す世界の流れにも逆行する。値上げは国立だけでなく、私立や公立大にも波及しかねない。家計への影響は大きく、進学を諦めざるを得ない若者の増加を招いてはなるまい。

 地域の教育・研究拠点でもある国立大だが、2004年の法人化以降、国からの運営費交付金が1割以上減らされた。昨今の物価高も重なり、国立大学協会が今月、「もう限界」との声明を出すほど財務状況は切迫しているようだ。

 文科省によると、授業料は大学の判断で標準額の2割まで増額でき、一橋大や千葉大などは値上げしている。だが、多くの大学は05年以降、横並びで標準額以下に抑えてきた。東大での値上げ検討が明らかになり、広島大や熊本大などで同調の動きが広がっている。

 文科省は4年前に授業料自由化を検討したものの、新型コロナ禍で困窮する学生が増え、立ち消えとなった。各大学の苦境が放置されてきた背景に高等教育への財政支援を渋る政府の姿勢が透ける。

 日本の教育への公的支出は経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の半分以下と低い。10兆円規模の大学ファンドから支援を受ける「国際卓越研究大」が創設されても恩恵はごく一部の大学に限られ、費用対効果も疑わしい。

 授業料の減免枠を広げ、返済不要の奨学金を拡充するなど、努力すれば誰もが学べる教育制度を再構築すべきだ。若者が存分に教育を受け、能力を高められる環境整備こそ政治の最優先課題である。

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