91歳、ステージは年20回「死ぬまで歌い続ける」 京都・南丹の男性が民謡に注ぐ情熱
京都新聞 / 2024年6月22日 17時0分
朗々とした歌声が響く。客席から拍手が起こる。京都府南丹市美山町で今月あったボランティアサークル「美山民謡会」の発表。加藤久雄(かとう・ひさお)さん(91)は、北海道の「北海金掘唄」をこぶしを効かせて歌った。
10人ほどのメンバーで91歳は最高齢だが、歌の「1番バッター」をいつも任される。
10年前は観客20人ほどでも足が震えた。今は「ようさん頭が並んでるな」と見渡せる。
子供の頃から歌うことが大好きだった。民謡との出会いは、土木会社を退職して第二の人生を考える60になってからだった。隣人に誘われた練習会がきっかけだった。腹の底から大きな声を出すことに快感を覚えた。「うまく歌えた時の達成感がたまらない」
今も手放さない歌詞本「日本の民謡」を頼りに、師匠から節回しをたたき込まれた。年季の入った本には節回しを示す赤線が書き込まれている。練習を録音したカセットを自宅で何度も聞く。声を伸ばすところ、こぶしの強弱などを、体に染み込ませる。
指導してきた中西文雄さん(87)は「声がいいのと、歌詞と難しい節回しをすぐ覚えてくる。そして『新しいのはないか』と聞いてくる。民謡への情熱がすごい。年齢なんか関係ない」と舌を巻く。
年間20回ほどのステージは地元の敬老会が多いが、大きなホールや京都市内で美声を披露することもある。
思い出に残るステージがある。20年ほど前に息子が住んでいた大津市で歌った。「『いつの間に練習してたの。よかったよ』と息子が言ってくれた時はうれしかった」
妻スミ子さんが7年前に亡くなった。「いつもほめてくれた妻に聞いてもらえないのはさみしいが、今はこれがすべて。死ぬまで歌い続けたい」
8月6日には美山小学校(同市美山町)で北欧のサクソフォンカルテットとコンサートで共演する。「ソーラン節」で西洋音楽と初コラボする。「私は歌うだけだけど、少しわくわくするね」。91歳が歩みを止めることはない。
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