人口8千人、山あいの郡部で情報誌が林立 硬軟さまざま共通する理念と課題 京都・旧北桑田
京都新聞 / 2024年6月28日 6時0分
京都府の旧北桑田郡(南丹市美山町、旧京北町)では、情報誌の発行が特に盛んなようだ。100年以上続く地域の論壇「北桑時報」が筆頭格。かやぶきの里保存会の「ふるさと」、京北の「山国自治会だより」も、住民の顔が見える紙面で、京都や全国の機関紙コンクールで表彰されている。
北桑田の元教職員で毎年つくる会報「のーちゃいむ」は、農業や民宿経営など退職後の挑戦、平和への思いなどを90代までの約40人が投稿しており、重厚さに驚いた。
京北の有志が配り、インターネットでも読める月刊「なう」も、白黒印刷の紙を折った簡易な製本だが、味わい深い家庭のエッセーや整体院長の健康講座など個性が詰まり、10年以上続く。京北の岩本さん一家が17年間発行する「家族新聞」もユニークだ。他にも、さまざまな会報などを目にしてきた。
人口8千人に過ぎない北桑田で読み応えのある冊子が林立する理由は分からないが、誌面は「地域の連帯感にとって重要」と、北桑時報の江口満・編集委員長(75)。かやぶきの里保存会の中野貞一さん(81)は、景観保全の歩みを記録して「将来の活動に役立てば」と、まだ見ぬ次世代にも思いをはせる。
振り返って105年前。北桑時報創刊号が表紙に掲げる「主張」からも、現代まで引き継がれる問題意識をうかがえる。面積が広く人口は少ないため、意見交換の難しい地域性から、雑誌で「思想の切磋琢磨(せっさたくま)を図り以(もっ)て人文の進展に資せんとす」「(言語と比べて)広く播(ま)き永く伝ふるは実に文章の長所」とうたっている。
第1次世界大戦が終わる1919年の発刊で、帝国間の競争では国民の思想が「最後の決勝点」とする部分は時代を感じるが、言論が地域を強くするという理念は色あせない。
人口減やインターネットの普及で、今や北桑時報も継続危機という。各種の会報も、メンバーの高齢化は課題と考えられる。
それでも、地域へと気軽に発信し、交流の呼び水に―という情報誌は、地域づくりのインフラといえよう。編集者の方々と同じ思いで、記者も山あいを日々巡っている。
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