社説:沖縄の苦悩なお 政府は溝を埋める努力せよ
京都新聞 / 2024年6月29日 16時0分
またも沖縄県民の心を踏みにじる事件が発覚した。
沖縄県内で女性に性的暴行したとして、県警が在沖米軍所属の20代海兵隊員を5月に逮捕していたことが分かった。
別の米空軍兵長の男(25)が少女を誘拐し、わいせつ行為をしたとして3月に那覇地検に起訴されていたことが判明したばかりだ。県民の怒りと不安は想像するに余りある。
国内の米軍専用施設の7割が集中する沖縄では、米軍関係者による殺傷事件や性犯罪などの事件が繰り返されてきた。
根本には、日本側の捜査権を制限する日米地位協定が、米兵の無法で横暴な行為を助長している面は否めない。那覇市議会が全会一致の抗議決議で協定の見直しを求めたのは当然だ。
二つの事件で政府から県側へ通報がなかったことも県民の憤りを増幅させている。外務省は「常に関係各所に連絡通報が必要とは考えてない」と説明するが、基地の押し付けに苦しんできた県民への誠実さを欠いた態度にあぜんとする。
折しも、太平洋戦争末期の沖縄戦終結から79年となる23日の「慰霊の日」を迎えたばかりだった。
岸田文雄首相は追悼式で「基地集中等による大きな負担を担っていることを重く受け止め、負担軽減に全力を尽くす」と述べた。だが期待する県民はほとんどいないのではないか。
追悼式で玉城デニー知事は、米軍基地の過重な負担に加え、急激な自衛隊の増強を進める政府の姿勢を厳しく批判した。
背景には、沖縄が一貫して訴えている負担軽減と平和への願いに逆行し、近年、「台湾有事」などを想定して急速に進む南西諸島の防衛力強化がある。
石垣島や宮古島などに陸上自衛隊の駐屯地が置かれ、今年3月には沖縄本島に初めて地対艦ミサイル部隊が配備された。
沖縄戦では20万人超が亡くなり、当時の県民の4人に1人が犠牲となった。沖縄が再び矢面に立たされ、攻撃対象になるとの不安を抱くのは無理もない。
基地負担を巡り、対話に応じるよう求めてきた沖縄県に対し、岸田氏らは背を向けたままである。
今年1月、政府は地元の反対を押し切り、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた大浦岸側工事を始めた。辺野古埋め立てでは、司法判断を盾に、承認手続きを史上初めて代執行した。溝は深まる一方だ。
今月の県議選では、移設阻止を掲げる玉城知事の支持派が半数を割った。ただ、反知事派にも工事強行への反発はあり、一概に移設容認への支持とは言えない。
米兵による事件を政府が伝えなかった背景に、県議選への配慮もあったのではないか。
今も続く苦難と是正を求める声に真摯(しんし)に向き合う。そうした姿勢を政府には強く求めたい。
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