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社説:空襲被害の救済 戦後80年を前に立法果たせ

京都新聞 / 2024年7月1日 16時0分

 もはや先送りは許されない。来年の戦後80年を前に、救済の道を確実にするべきだ。

 第2次世界大戦の空襲で心身に被害を受けた民間人の救済法案は、先日閉会した通常国会でも提出が見送られた。

 全国空襲被害者連絡協議会(空襲連)の働きかけを受け、超党派の国会議員でつくる「空襲議連」は、心身に障害が残った存命の民間戦災被害者に1人50万円を給付する内容の法案要綱をまとめている。

 だが、民間人補償に国が難色を示す中、今回も与党内で意見が一致せず、高齢の被害者らの落胆を招いた。

 一方、5月の国会審議で、従来は「所管外」と主張してきた厚生労働省が「法律が成立すれば所管になる」(武見敬三厚労相)と姿勢の変化も見せた。法制化に向けて論点を深めてもらいたい。

 米軍による空襲では、全国で50~60万人が亡くなり、それを超える多くの人が負傷したとされる。

 軍人や軍属に対しては恩給などで国は60兆円以上を支払ったが、民間の空襲被害者には補償を行っていない。

 国との雇用契約関係がなかったというのが、国が補償を拒む理由である。

 東京、大阪や沖縄などの空襲の被害者が国に慰謝料を求めて起こした裁判の判決を通じて、「戦争による肉体的、金銭的、精神的な損害は国民が等しく我慢しなければならない」という「受忍論」が、政府の姿勢を支えている。

 だが、日本人が旧植民地などに持っていた財産の補償をめぐって示された受忍論が、心身の被害にも及ぶというのは、無理があると言わざるを得ない。

 そもそも空襲の犠牲者が増えた背景には、国民の避難を禁じた防空法制や情報統制の強化がある。

 「空襲は怖くない」などと呼びかけられ、都市部では焼夷弾の炎をバケツの水や布団で消す訓練が繰り返された。国が責任を免れ、軍関係者との格差を放置していいわけがない。

 それでも救済法案の提出が停滞しているのは、「戦後処理は終了した」としてきた政府や与党の従来見解と矛盾するからとみられる。

 この点については、「補償」ではなく、「見舞い」といった扱いにするという案も浮上している。

 厚労省は議連に「対象は日本国籍限定か」「空襲の範囲が不明確」「被害認定が難しい」などの論点を示している。全体が進まない口実とせず、建設的に課題を整理したい。

 空襲で心身に重い障害を負い、就職や結婚が困難になりながら、金銭的な補償や支援もなく戦後を生きてきた人が数多くいる。そうした人たちの思いを受け止める必要がある。
 

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