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社説:強制不妊判決 旧法を断罪、国は救済を急げ

京都新聞 / 2024年7月5日 16時0分

 子を産み育てる権利や人間としての尊厳を奪った「戦後最大の人権侵害」に対し、国の責任を明確に指弾した歴史的判決といえる。

 政府と国会は、裁判を起こした人に限らず、全ての被害者の救済と補償を急がねばならない。

 旧優生保護法下で不妊手術を強いたのは憲法違反として、各地の障害者が国に損害賠償を求めた5訴訟の判決で、最高裁大法廷は、旧法は違憲と断じ、国の賠償責任を認める初の統一判断を示した。

 高裁段階で判断が分かれ、焦点だった「除斥期間」の適用でも新判断を示した。不法行為から20年で賠償請求権が例外なく消滅するとした1989年の最高裁判決を見直し、それを理由に国が賠償責任を免れるのは「著しく公平・正義に反する」と適用しなかった。

 原告らが不妊手術を受けたのはいずれも70年代以前で、賠償請求権はないという国の主張に対し、最高裁は「権利の乱用だ」と退けた。「時間の壁」に風穴をあけた最高裁判断は、長期的な被害に関わる他の裁判に影響する可能性もあり、意義は大きい。

 70年超える負の歴史

 旧法の違憲性も断罪した。不妊手術の強制は、個人の尊厳と人格の尊重を定める憲法13条の精神に著しく反し、許されないと批判した。特定の障害者を対象としたことも、法の下の平等を定める14条1項に違反すると認定した。

 国や社会が一体となって人権を侵害し、立法から今判決まで70年以上を要した歴史を直視したい。

 旧優生保護法は、障害の有無で人命に優劣をつける優生思想に基づき、「不良な子孫の出生を防止する」との目的で1948年に制定された。ナチス・ドイツの「断種法」を取り入れた戦前の国民優生法を受け継いだ。

 同法の下で約2万5千人が知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に不妊手術を施された。同意のない手術が6割以上あり、施設入所や結婚の条件とされたり、盲腸の手術とだまされた事例もあった。不妊手術の資料が残っているのは京都府で152人、滋賀県で387人に上る。

 ようやく法が廃止されたのは1996年で、母体保護法の名に改められ、不妊手術規定も削除された。だがその後、民間団体などが謝罪や補償を繰り返し求めたのに対し、国は「当時は合法だった」と拒んできた。

 国会も反省と謝罪を

 転機は2018年に訪れる。強制不妊への国の賠償責任を問う訴訟が初めて起こされ、これまで男女39人が提訴している。

 国連の是正勧告もあり、国会に超党派議員連盟が発足。19年に議員立法により、被害者1人当たり320万円の一時金を支給する救済法が成立した。

 しかし、支給認定された人はこれまで約1100人にとどまる。最高裁が認めた1人当たり1100万~1650万円の賠償額に比べ、金額の隔たりも大きい。

 被害者の高齢化が進み、亡くなる人も相次ぐ。障害のある人が補償の手続きをしやすいよう、手厚い支援を速やかに講じたい。

 岸田文雄首相は「心からおわびする」と述べ、月内にも患者や遺族と面会する意向を示した。形式的な謝罪で済まさず、被害者が納得する形で、救済の仕組みを見直すよう指導力を発揮すべきだ。

 国会の責任も重い。最高裁判決は、旧法を「立法自体が違憲」と糾弾した。48年には議員立法を全会一致で成立させ、その後半世紀近く差別的な法律を存続させた。

 昨年まとめた国会報告書でも、強制不妊手術を国策だったと認めながら、自らの責任は明確にしなかった。政府と同様、衆参両院の反省と謝罪の表明が欠かせない。

 残る優生思想と偏見

 メディアや日本社会のあり方も問われている。

 96年の旧法改正時も、政治による検証作業が不十分な点に厳しい批判を繰り広げなかった。結果として、18年に国賠裁判が始まるまで、問題の根深さと被害者救済に大きな関心が向けられなかった。

 裁判で弁護団は「優生手術の対象者は断種されて当然という考え方が法律や政策によって社会に浸透した」と述べた。その主張を裏打ちするような、差別や偏見に満ちた問題が近年も続いている。

 16年に相模原市の知的障害者施設で元職員が多数の利用者を殺傷した事件は、優生思想に基づく差別の根深さを突きつけた。2年前には北海道の施設で不妊処置が相次いだ問題が発覚。差別的言説はSNSにもあふれている。

 本紙が5年前から取り組む企画記事「隠れた刃(やいば)」は、私たちの心に優生思想が今も潜むのではないかとの問題意識から出発した。京滋を中心に被害の実情を掘り起こす取材を続けている。

 不妊手術を受けながら、差別を恐れて声を上げられない人や、受けたこと自体を知らされていない人は多い。国や自治体はプライバシーに配慮した上で情報を示して救済を進める必要がある。

 差別や偏見から人権をないがしろにする土壌は、決して過去のものではない。負の歴史から目を背けず、私たち自身の人権意識も顧み続けたい。

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