社説:トランプ氏銃撃 中傷をやめ、政策論争を
京都新聞 / 2024年7月17日 16時0分
言論に対する暴力は、いかなる理由があっても許されない。民主主義に敵対する卑劣な行為を強く非難する。
米国のトランプ前大統領が東部ペンシルベニア州バトラーで開かれた選挙集会の演説中に銃撃された。
銃弾はトランプ氏の右耳の上部を貫通したが、命に別条はなかった。
一方、被弾した参加者1人が死亡し、2人が重傷を負った。選挙集会での理不尽な惨事に言葉を失う。
地元出身の20歳の容疑者は会場外から発砲したとみられ、大統領警護隊に殺害された。事件の背景や動機の解明が急がれる。
懸念されるのは、今回の事件が、ただでさえ顕著になっている米国社会の分断を、一層深めかねないことだ。
2020年の前回大統領選の直後、トランプ氏の支持者たちは結果を覆すため連邦議会を襲撃し、警察官1人を含む5人が死亡する事件が起きた。
トランプ氏は選挙の敗北を認めず、根拠のない陰謀論を広める役割を果たした。議会襲撃に関連して自らも起訴されたが、トランプ氏と支持者は悪びれることもなく、むしろ結束を強めている。
今回の事件は、こうした身勝手な振る舞いやルール破りと無関係ではないことを、トランプ氏も自覚してほしい。
米国では過去にも要人の暗殺や暗殺未遂事件が繰り返し起きている。銃が事実上、野放しなのも深刻な影響を与えている。
民主主義のリーダーであるはずの米国政治が暴力に左右される現実は、深刻といわざるをえない。
トランプ氏は15日に始まった共和党大会で正式に大統領候補に選出された。陣営は、事件を無党派層への支持拡大につなげる構えを見せる。
一方、バイデン氏の撤退を求める声が続いている民主党側は、事件を受けトランプ氏を非難するCMを控えるなど、戦略の見直しを迫られている。
米国社会が事件の衝撃を受けたまま、11月の本選挙を迎えれば、結果によっては再び混乱を招く恐れもあろう。暴力の連鎖はなんとしても避けねばならない。
ロイター通信の最新の世論調査では、米有権者の約7割が大統領選後に政治的な暴力が発生する事態を懸念しているという。
感情的な対立のエスカレートは危うい。冷静な政策論争に切り替える機会とすべきだ。
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