社説:京アニ事件5年 志を繋いで、問い続ける
京都新聞 / 2024年7月18日 16時5分
36人の命が奪われ、32人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件は、きょうで発生から5年を迎えた。
14日には事件を後世に伝える「志を繋(つな)ぐ碑」が、宇治市莵道の公園に完成した。犠牲者の数にあたる36羽の鳥が羽ばたく様子のデザインは、京アニのスタッフが考え、「夢と情熱を人から人へ」などと碑文が刻まれた。
式典ではスタッフの代表が「大切な仲間のことを忘れたことはない」との言葉を寄せた。突然に家族や仲間を亡くした無念さが消えることはあるまい。
事件を決して風化させず、平成以降、最多の犠牲者を出した凶行の重大性を問い続けたい。
殺人など五つの罪に問われた青葉真司被告に対し、143日間に及ぶ裁判員裁判を経て京都地裁は今年1月、争点だった完全責任能力を認めた上で、求刑通り死刑判決を言い渡した。だが、弁護人と被告はそれぞれ不服として、大阪高裁に控訴した。
裁判では、被害者参加制度に基づき、遺族らが被告を前に、かけがえのない人を奪われた悲痛を口々に語った。被告が「申し訳ございません」と初めて謝罪の言葉を口にしたのは、遺族からの質問に対してである。
発する言葉の変化の一方、死刑判決後、拘置所で面会した遺族に対し、被告は「京アニに裏切られた」と述べている。身勝手でゆがんだ憎悪や、自己を正当化する姿勢がうかがえる。
高裁では、犯行に及んだ理由や背景をより詳しく、明らかにしてもらいたい。
一審で浮き彫りとなったのは被告の「孤立」だった。幼少期から虐待や貧困の中で育ち、非正規の職を転々とした。精神疾患と診断され、行政や医療、福祉の支援もあったが、社会とのつながりは薄いままだった。なぜ凶行を防ぐことはできなかったのか、社会に突きつけられた課題は重い。
今年4月には、社会的孤立に悩む人への支援を強化する「孤独・孤立対策推進法」が施行された。疎外感や生きにくさを募らせる人に周囲が連携し、支えることが欠かせない。
京アニは事件以降、「響け!ユーフォニアム」など複数の続編を手がけた。事件現場となった第1スタジオ跡地は、アニメ制作を行う用地となる見通しだ。
亡くなったスタッフの思いとともに、これからも唯一無二の作品を、世に送り出してほしい。
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