社説:強制不妊で謝罪 政府、国会は責任果たせ
京都新聞 / 2024年7月19日 16時5分
岸田文雄首相が、旧優生保護法で障害を理由に不妊手術を強制された被害者に直接謝罪した。
旧法を憲法違反として国に賠償を命じた最高裁判決を踏まえ、約2万5千人が不妊手術の被害を受けたことを「痛恨の極み。法を執行した政府の責任は極めて重大だ」と述べた。
その上で、訴訟を起こしていない人も含めて幅広い被害者への補償制度の創設や、各地の訴訟の和解を目指す方針を明らかにした。
旧法は76年前の立法当時から違憲だったと最高裁で断罪された。謝罪は当然であり、遅きに失したと言わざるを得ない。早急な全面救済の実行力が問われる。
政府はこれまで、被害者救済の訴えに対し、不法行為から20年で損害賠償請求権が消える「除斥期間」を盾に拒み続けてきた。
全面解決のためには、政府は何を間違え、なぜ是正できなかったのかを検証する必要がある。旧法の執行に関するさらなる情報公開も不可欠ではないか。
国の過ちと被害実態に向き合わず、門前払いを求める政府の対応は水俣病訴訟などでも見られる。一度決めた行政判断に誤りはないとする「無謬(むびゅう)主義」は見直さねばならない。
国会の責任が重大なことも確認したい。旧法は1948年に議員立法で、衆参両院の全会一致で成立した。重大な人権侵害との批判の声が上がっていたにもかかわらず、96年の法改正まで半世紀も見過ごし、救済も遅れた。
衆参両院は、秋の臨時国会で、被害者への謝罪決議を採択する見通しだ。国会は幾重もの過ちを直視し、人命に優劣をつける優生思想の克服を誓うよう求めたい。
被害者に対する十分な補償に向けた立法措置こそ、国会の果たすべき責務である。
議員立法で2019年、一時金320万円を被害者に一律支給する法律が成立したが、十分とは言い難い。裁判で確定した慰謝料(最高1650万円)より著しく低い。配偶者や遺族による申請も認められていない。支給認定が今年5月末時点で約1100件にとどまっていることが、制度の不備を物語っている。
被害者や配偶者の高齢化も進む。幅広い救済に向け被害認定の方法や補償額を早急に示すべきだ。
差別を恐れ名乗り出ない人や、手術を受けたことを知らない人への働きかけと、社会的な理解を広げることにも力を尽くしたい。
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