社説:公益通報者の保護 報復を防ぎ、是正につなげよ
京都新聞 / 2024年7月21日 16時0分
企業や官公庁などの不正を告発する「公益通報」は、被害の拡大を防ぎ、社会の安全や組織自体を健全に守る重要な支えであることを再確認したい。
内部告発を契機に昨年来、自動車メーカーなどの不正が次々に発覚し、大きく波紋が広がった。
一方、通報者を「裏切り者」と敵視し、不当な配置転換や情報漏えいで処分するなどの「報復」が問題になっている。
通報窓口の形を整えるだけでなく、心配なく通報でき、是正に生かせる仕組みを機能させることが不可欠だ。
ダイハツ工業の品質不正は、内部通報を受けた第三者委員会の調査で、30年超にわたる64車種での不正が判明。京都、滋賀など4工場で最長4カ月半の操業停止に追い込まれ、地域経済にも影を落とした。
中古車販売大手だったビッグモーター(現WECARS)の保険金不正請求問題では、内部告発があったのに会社は対応を怠り、信用失墜を招いた。
不正の放置が組織をむしばみ、存続すら脅かすことを自覚せねばなるまい。
ただ、勇気をふるって不正を告発した人を守る体制は心もとないのが実情だ。
2022年に改正施行された公益通報者保護法は、従業員300人超の企業や組織に通報体制の整備を義務付け、通報者の解雇、配転など不利益な取り扱いを禁止するなどした。
だが、いずれも努力義務にとどまり、組織による報復を防ぐ罰則の導入は見送られた。
告発者にとって拭えない不安は、現実となっている。
鹿児島県警は先月、警察官の犯罪を本部長が隠蔽しようとしたと報道関係者に告発した元県警幹部を、情報漏えいの疑いで逮捕した。公益通報として扱うべきとの専門家の指摘もあり、「口封じ」の疑念が拭えない。
兵庫県知事のパワハラ疑惑などを告発する文書を報道機関などに配布した元県幹部は、懲戒処分を受けた後、死亡した。
県窓口に連絡前の文書配布は「公益通報ではない」と県は説明したが、保護法は報道機関など外部への通報を認めている。知事が一方的に「うそ八百」「職員失格」と断罪した違法性と責任が問われている。
京都市では、15年に事件告発のため児童相談所の記録を持ち出した職員に対し、市が行った懲戒処分は違法として取り消す最高裁判決が確定している。
企業でも告発者への不当な処遇や嫌がらせが後を絶たない。
昨秋の消費者庁調査で、内部通報・相談した人の3割が後悔を抱き、理由は「調査、是正されなかった」が6割弱、「不利益を受けた」が4割を超えた。
誰もが交流サイト(SNS)で情報発信できる時代だ。組織の不正を内部告発しやすい環境を整え、透明性を伴った是正を促す法整備が必要ではないか。
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