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新宿御苑の桜も京都に起源 探偵顔負け、研究者が挑む「謎解き」の鮮やかさ

京都新聞 / 2024年6月9日 5時0分

府立植物園で満開のホソイザクラ。同園には180品種の桜が保存、展示されている(3月22日、京都市左京区)

 江戸期を中心に数多く生み出された桜の品種が、忘れ去られたまま消えようとしている。埋もれた桜の歴史を掘り起こそうと、古典文学にも手がかりを求める研究者の調査はまるで「謎解きミステリー」のよう。探偵顔負けの推理を展開し、多彩な桜の咲きぶりをめでた文化を後世に伝えようと桜の謎に迫っている。

 桜は古くから鑑賞価値の高い花を得ようと、ツバキやウメなどと同様に交配や選抜が行われ、多くの園芸品種が誕生した。だが明治期以降はソメイヨシノの大流行などで園芸文化が衰退。多くの桜の品種で名称や所在、何を交配し、誰が植えたのか、といった情報が受け継がれなくなっている。

 そんな名桜の歴史を掘り起こすため、研究者がルーツを探る調査を進めている。

 ヒントとなるのは、花の外見的な特徴や遺伝子情報の分析、園芸関係者の証言など。新宿御苑(東京都)にある「みぎわ桜」の場合は平家物語が手がかりとなった。

 みぎわ桜は、京都府立植物園(京都市左京区)に古くからあった「大原渚(おおはらなぎさ)」と同じ遺伝子のクローンであることが2015年に判明した。だが両方とも品種名しか伝わっておらず、由来は不明。そこで森林総合研究所の研究者が目を付けたのが「大原」の文字だった。

 大原が地名であると推測して調査を進めた結果、左京区大原の寂光院には平家物語「灌頂巻(かんじょうのまき)」で建礼門院を訪れた後白河法皇が「池水に汀の桜散り敷きて 波の花こそ盛りなりけれ」と詠んだ和歌にちなむとされる「汀(みぎわ)桜」があると判明。最終的に現地調査を行い、汀桜が「みぎわ桜」と「大原渚」のルーツであることを突き止めた。

 府立植物園の研究者らは、京都御所(上京区)や桂離宮(西京区)など離宮内の桜を大正期に植物学者・三好学が調べた記録が所蔵資料内にあることを発見。記録には名前と木の位置、花の特徴しか書かれていなかったが、記載された35品種45本の現状を調べ、10品種が現存していることを確認した。

 確認したうち2品種は三好が「他では見られない」として命名した珍しい品種であることも分かった。それまで離宮の桜は、ほとんどが「名もない桜」と捉えられていたが、調査によって価値が掘り起こされた格好だ。

 府立植物園は「クローンである桜の品種は、接ぎ木をするなど人間の手が加わらなければいずれ消えてしまう運命にある」と指摘。かつてはソメイヨシノだけでなく、さまざまな品種の咲き方を楽しむ文化が日本にはあったことを伝えるためにも、ルーツを探る調査は重要だと訴える。

 京都市内には寺社や旧家などに今も多くの桜の歴史が埋もれているとみられる。府立植物園の担当者は「文化財的な古く大事な桜の遺伝情報を保存することも植物園の役割。ルーツが分かることで保全にもつながる」と話していた。

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