社説:研究力の低下 人づくりへの投資惜しむな
京都新聞 / 2024年7月29日 16時0分
日本の大学の研究力が低下していると叫ばれて久しい。
世界で数多く引用された注目論文数の指標でみると、日本は2019~21年に過去最低の13位にとどまり、00年代半ばの4位から大きく後退した。全体の論文数は5位であり、質の低下が否めない。現状分析と抜本的なテコ入れが必要だろう。
研究力が低迷する主な要因として指摘されているのが、必要な資金の欠如である。
京都と滋賀の国公立大を対象にした京都新聞社のアンケートでは、教育研究の財源確保に苦慮し、国の支出拡大を求める深刻な訴えが相次いだ。
国立大は競争原理の導入を旗印に04年に法人化されて以降、人件費など基盤的な経費に充てられる運営費交付金の縮小が続いている。24年度は04年度に比べて13%減少した。公立大への交付金や私立大への補助金も、減額傾向にある。
一方で審査によって採否が決まる科学研究費も、最近10年間はほとんど増えていない。多くの独創的なアイデアが埋もれ、とりわけ若手研究者の意欲をそぎかねないとの危機感が大学現場で高まっている。
多くの国立大では、運営費交付金の減少を受けて教員数を削減した。研究室に所属する学生・大学院生にきめ細かな指導が難しくなったり、自らが立案した研究に費やす時間が取れなくなったりしているという。
基盤経費が削減され、支給期間が限られた補助金が増えた影響もあり、任期付きの教員が多くなっているのも大きな問題だ。人材の流動性を高める狙いもあるとされるが、数年先の職場と収入が見通せない中で、研究に十分打ち込めるだろうか。
大学院博士課程への23年度の進学者は、20年前と比べると約4割も減少している。国は、産業界にも働きかけて博士号取得者の活躍の場を広げていくというが、大学の不安定な雇用環境の改善にこそ向き合うべきだ。
こうした中、東京大が学費の値上げ検討を打ち出し、波紋を広げている。本紙アンケートで京滋の国公立大全10大学中、京都大など8大学は現時点で「値上げしない」としたが、将来への危機感は大きかった。
「カネと人の不足」に伴う悪循環を断ち、日本の研究力を反転向上させるためには、国の積極的な資金投入が欠かせない。
政府は先端半導体の国産化などに巨額の投資を行うが、国内で革新的な技術の創出が遅れているのは、大学などの基礎研究を軽視してきた面も大きいと自覚してもらいたい。
中教審の特別部会は、急速な少子高齢化に応じ、大学の再編・統合や撤退を促す支援策を盛り込んだ中間案をまとめた。
各大学は社会人や留学生の受け入れ、大学間連携などにも一段と踏み込み、研究・育成の基盤強化に努めてほしい。
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