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社説:佐渡島の金山 日韓対話、道開いた遺産

京都新聞 / 2024年7月31日 16時0分

 歴史の光だけでなく影を含めた全体像をしっかり見つめ、継承していきたい。

 新潟県の「佐渡島(さど)の金山」が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されることが決まった。

 世界の鉱山で機械化が進んだ16~19世紀に、採取から精錬まで伝統的な手工業技術で高純度の金を産出したことが評価された。

 地元佐渡市と県の提案から17年余り、念願の登録にこぎつけた。

 大きく影響を与え、鍵を握ったのが日韓関係だ。2021年に文化審議会が推薦候補に選んだが、韓国は戦時中に朝鮮半島出身者の強制労働があったと反発した。政府は推薦見送りに傾いたが、与党内の保守派に押されて岸田文雄首相が決定した経緯がある。

 だがユネスコ側からも、江戸期だけでなく「全体の歴史」を反映するよう迫られた。

 日本は今回、明治以降の史跡が多い一部地区の除外要請に応じた上で、「全ての労働者、特に朝鮮半島出身者を誠実に記憶にとどめる」とし、「全体の歴史に関する説明・展示戦略を強化すべく努力する」と表明した。

 日韓の協議で、強制労働かどうか意見の相違はありながらも、双方が歩み寄って妥協点を見いだせたことで道が開けたといえる。

 実際に現地の資料館で、朝鮮半島出身者が危険な作業に従事する割合が高かったとするパネル展示を始めた。政府が認めない「強制」の表現は避けているが、「過酷な労働環境」にあった史実を具体的に伝える意義は小さくない。

 これ以前に15年登録の「明治日本の産業革命遺産」を巡るしこりもあった。同様に強制労働を批判する韓国に、日本は「記憶にとどめる適切な対応」を約束したが、資料展示で差別的対応を否定する証言を紹介したことで対立した。

 尹錫悦政権の発足が転機となった。徴用工問題の解決策で合意し、首脳の相互訪問を含む関係改善が後押しした。一方、両国内の歴史認識には隔たりが残る。これに真摯(しんし)に向き合い、今後も対話によって解決する重要性を確認したい。

 ユネスコは今回、1989年の中国・天安門事件の現場を含む北京市の「中軸線」の世界文化遺産登録も決めた。

 「顕著で普遍的な価値」を認め合い、全人類のために守るのが世界遺産条約の理念だ。自国の立場の正当化や観光・経済的利用のためにゆがめないよう、意義を見つめ直す時ではないか。

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