元陸軍ガス兵の102歳男性「戦争は悪。もっと早く負けたらよかった」 何度も死線越え、戦後は教師に
京都新聞 / 2024年8月12日 17時0分
太平洋戦争で旧陸軍ガス兵の訓練を受けた元高校教諭、永見小太郎さん(102)=滋賀県近江八幡市。同じ部隊の兵士は「私以外、みな戦死した」。足元に爆弾が落ち、機銃掃射に遭い、自宅が全焼するなど何度も九死に一生を得た。戦後79年。「戦争は絶対にあかん」と訴えている。
■同じ部隊の仲間は全員戦死
大阪市生まれ。14歳で卸問屋などへでっち奉公し、19歳で太平洋戦争になった。働きながら夜間中学へ通い、22歳の春に召集された。
「いよいよか。立派な体格じゃないし、兵隊が務まるか…」。終戦1年前の当時は盛大な見送りはなく、人知れず神社で町の役員らに見送られ、学校で日章旗を贈られた。入隊後、軍服はつぎはぎだらけ、サイズの合う靴がない。靴が小さいと言うと1等兵から「足で合わせ!」と怒られた。食べ物は大豆7割の飯と具がほとんどない汁だった。
ある日、馬の水飲み場で「顔を漬けろ」と命じられた。長く息を止めて顔を上げると、部隊で「一番息が長い」としてガス兵に選ばれた。進軍して敵の毒ガスを無毒化する役目。約1カ月の訓練後、出征前に「家で待機」となった。しかし、待てども戦地に送られず、同じ部隊の残りの人は先に出征。途中で船が沈められて、全員戦死したという。
■2メートル後ろに銀色の爆弾
終戦の年の春、23歳で大阪鉄道局に就職した。6月、出勤後に2回目の大阪大空襲があり、自宅周辺が一軒残らず焦土になった。近くの寺に60体ほどの遺体が安置され、母や妹がいないか見に行った。遺体を覆うトタンを1体ずつめくって見ると「もんぺ姿の女性が多く、死臭で気分が悪くなった」。防空壕(ごう)をのぞくと「知っている幼女が母親とピンク色の蒸し豚のように亡くなっていた。本当にかわいそうで、忘れられない光景だった」。幸い、母、妹とは2日後に再会した。
6日後。快晴の空に日本の飛行機が10機ほど見えた日。「今日はやってくれそうだ」と期待したが、すぐ姿が消え「ザー」と爆弾の音が。高架下に逃げるも人だかりで入れずにいた時「わー」と叫ぶ人に後ろから押され、高架下に倒れた。
振り返ると約2メートルの銀色の爆弾が芝生上に落ちていた。いつ爆発するか分からない。周囲がパニックになる中、通りがかった軍人が、群衆が騒ぐことで爆発することを恐れてか、軍刀を抜き「動いたら斬るぞ」と脅し、周囲は「南無阿弥陀仏」とおびえた。周囲に水がない中、爆弾の周りの草がちらちら燃え「誰か消して」の声が。永見さんは「ええとこ見せよう」と踏み消しにかかった。「ゲートルに火が燃え移って危なかった。爆弾からガスが漏れていた。爆発したら死んでいた」
■機銃掃射「笑いながら撃ちよるのが見えた」
しばらく鉄道局で当直をして泊まった。「街中で死んでも誰にも見つけてもらえない。死ぬなら職場で」との思いだった。終戦前日の8月14日、朝から空襲警報が鳴り「もう鉄道局を守っても仕方がない」と電車に乗り、母、妹がいる疎開先へ逃げた。途中、電車が止まり、全員が降りて田んぼのあぜに散らばり伏せた。「バリバリ」と銃撃の音が響いた。戦闘機の空襲だった。
「当時は、もう日本の飛行機はおらへん。すれすれの低いところを飛んで、笑いながら撃ちよるのが見えた。向こうは遊んどる」と憤る。戦闘機は何度も旋回。「生きた心地がしなかった」が、無事だった。
「(終戦の頃は)負けると思っていたけど、みな自分を守るのに必死で口に出せなかった。終戦が遅れたことで、たくさん国民が犠牲になった。もっと早くに負けたら良かったのに」
終戦後は、県立日野、甲賀、八幡商業高で75歳まで社会、商業科を教え、働きながら同志社大大学院を修了した。「子どもを含めたたくさんの一般市民が亡くなるのが戦争。こんな悲惨なことはない。戦争は悪。絶対にしたらあかん」
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