1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

社説:終戦の日に 新たな「戦前」に進まぬよう

京都新聞 / 2024年8月15日 16時0分

 79年前のきょう、正午に始まった天皇の肉声を伝えるラジオ放送で、日本人は敗戦を知る。

 皇居前広場で人々がひざまずき号泣する映像の印象が強いが、受け止め方は一様でなかった。平和の訪れに安堵(あんど)したり、虚脱する者、明日からの生活に思いを致す者、怒りに震える者…。

 日本の降伏を信じようとしなかった人も実は大勢いたと、半藤一利著「十二月八日と八月十五日」は伝える。

 先の戦争では310万人もの兵士と民間人が亡くなり、旧日本軍が侵攻したアジア各地などで幾多の命を奪った。その深い悔悟から、戦争放棄と戦力不保持を定めた新しい憲法がつくられた。

 揺らぐ平和の土台

 70年前には、連合国の占領政策の転換で自衛隊が発足したが、冷戦下で日本は高度成長を遂げ、曲がりなりにも戦没者を出すことなく、豊かさを追い求めた。

 だが、そうして守ってきた「平和」の前途が危うくなっている。

 「日本が今後、戦争をする可能性がある」と答えた人は48%-。

 今月4日に掲載された世論調査である。2020年の3割台と比べると、21年以降は4割台で高止まりしている。

 戦争は絶対にしてはならないという歴史の教訓とは裏腹に、現実には紛争に巻き込まれるかもしれないとの不安や危機感が広がっている。

 背景にあるのは、世界で起きている二つの戦争や、東アジアでの緊張の高まりに違いない。

 ロシアのウクライナ侵略はまもなく2年半が経過し、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃は10カ月以上に及ぶ。いずれも収束の糸口が見えず、市民らの犠牲者が増え続けている。

 東アジアでは中国が南シナ海などで権益拡大の野心を隠さず、台湾統一に武力行使も辞さぬ構えを崩さない。北朝鮮は核開発やミサイル発射実験を強行している。

 こうした状況に対し、国際社会による停戦や緊張緩和の働きかけは効果を上げられないでいる。

 国連安全保障理事会では、ウクライナ侵略への制裁決議で、常任理事国ロシアが拒否権行使を繰り返し、国際法を踏みにじる行為に対して機能不全をさらした。

 国際司法裁判所(ICJ)は1月、ガザでのジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐようイスラエルに警告したが、一顧だにされていない。

 大国間の分断が深まり、協調の上に国際秩序を維持する理想は遠ざかるばかり。そんな中、話し合いで紛争の解決を目指すより、まずは自国の軍事力を高めるほうが現実的との考えが強まっているようにみえる。

 危うい軍拡への傾斜

 しかし、と思う。最小限の自衛の重要さは理解した上で、軍拡に傾斜する危うさを共有し、多国間で問題解決を目指す外交に足場を置かねばならない。むしろ危機に際し、武力以外の解決策をあきらめないことこそ、焦土で日本人が世界に誓ったのではなかったか。

 その証しとしての平和憲法をとび越えるかのように、政府は自衛隊の増強へとひた走る。

 10年前に安倍晋三政権が従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をして以降、「専守防衛」の原則は空洞化が進む。

 岸田文雄首相は22年、「防衛力の抜本的強化」を掲げ、安保関連3文書を閣議決定で改定。他国への反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や、防衛予算の「倍増」を打ち出した。自衛隊と米軍の一体的運用も加速している。

 政府はこれらを「自衛の範囲内」と説明するが、長距離ミサイル配備は、周辺国のさらなる軍事強化を招き、日本攻撃の口実を与えるリスクを増大しかねない。

 さらに今年3月、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出解禁を決めた。殺傷兵器そのものであり、長く堅持してきた「武器輸出禁止三原則」を骨抜きにするものだ。

 問題なのは、国の針路に関わる重大な政策転換にもかかわらず、国民への説明も、国会審議も十分にないまま、与党合意や閣議決定だけで既成事実化する姿勢だ。

 先の大戦では、帝国議会は軍部のいいなりとなって、戦争拡大を追認してきた。現憲法では三権分立を明記するが、平和憲法の根底を揺るがす近年の安保政策に対して、国会のチェック機能がどれほど反映されているだろうか。

 岸田首相、来月退陣へ

 岸田首相がきのう、次期自民党総裁選への不出馬を表明した。

 岸田氏は被爆地・広島の選出であることをアピールし、先進7カ国(G7)広島サミットを開いた。だが、核軍縮では「核保有国と非保有国の橋渡し」を強調するだけで、実際には核抑止への依存を強めた。

 秋には新しい自民党総裁、首相が決まる。衆院任期は残り1年となり、来夏に参院選も控える。

 来年迎える戦後80年は政治の季節ともなろう。平和と経済発展を享受してきた私たち主権者が、新しい「戦前」の道を進まない決意と選択を問われることになる。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください