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刑事の夢断念も…水泳との出会いが未来を変えた 滋賀県栗東市の男性が有力選手に

京都新聞 / 2024年8月6日 6時30分

脳出血の後遺症で半身まひとなった滋賀県警職員の矢野さん。刑事の仕事を辞め、パラ水泳に思いをつなぐ(大津市打出浜・県警本部)

 憧れだった刑事。その目標に手が届いた直後、脳出血に倒れた。滋賀県警の一般職員矢野智孝(ともゆき)さん(42)=滋賀県栗東市=は体にまひが残り、警察官を続けられなくなった。将来を見失いかけた時、リハビリで出会ったのが水泳だった。今では、全国障害者スポーツ大会(障スポ)に出場する有力選手の一人だ。

 矢野さんは2004年4月、警察官として県警に採用された。ドラマ「踊る大捜査線」を見て、刑事を志した。警察学校を出て、草津署の交番や機動隊などで経験を重ねた。

 異変は突然訪れた。同僚とハワイ旅行中の10年2月、激しい頭痛に襲われた。「硬いものでガンガンたたかれているような感覚」。吐き気もひどく、現地で緊急手術を受けた。くも膜下出血だった。

 帰国後、精密検査で「脳動静脈奇形」という血管の病気が見つかった。放射線治療などが必要になったが、この時は幸い、すぐに仕事に復帰した。

 念願の刑事になれたのは、高島署に配属された11年3月。「やりたかった仕事ができる」。少人数の職場だからこそ、同僚と協力して地道に捜査していく醍醐味(だいごみ)を感じた。

 だがその年の8月、脳出血で再び倒れた。当直勤務中、夕食を注文しようとしたら、急に言葉が出なくなった。一命は取り留めたものの、病院で意識を回復すると、体の右半分が動かなくなっていた。

 「子どもとキャッチボールもできないのか」。当時は独身だったが、思い描いた幸せはこないと思うと、落ち込んだ。でも、周囲にはもっとつらい境遇の人がいた。「前を向かなあかん」。無理にでも自分を鼓舞した。

 12年4月の退院後、リハビリの一環で、県立障害者福祉センター(草津市)のプールに通い始めた。そこで水泳の楽しさに触れた。ある日、同じ半身まひの男性に「一緒に競技を目指さないか」と誘われた。刑事を諦め、一般職員として県警に戻った頃だった。挑戦してみたいと思った。

 甘い世界ではない。身体障害者の枠で出場できるのは県内でたった2人。なかなか選ばれることはなかった。ようやく出場権をつかんだ19年以降も、台風や新型コロナウイルス禍で3大会連続の中止や延期となった。

 そして迎えた22年の障スポ。初出場ながら、自由形25メートル、同50メートルの2種目で銀メダルを取った。順位よりも、自己ベストを出せたことがうれしかった。これまでの自分を超えられたような気がしたからだ。

 「障害でいろんな不自由があると、一歩を踏み出せず諦めてしまうことが多かった。だけど打ち込めるものが見つかった。水泳に出会えてよかった」

 今秋、佐賀県で開かれる障スポに出場する。来年には地元・滋賀県での障スポ開催を控えており、支えてくれた人たちのためにも、活躍を誓う。3児の父としての思いもある。「追いかけっこもしてやれなかったが、頑張ってる姿を見てほしい」。狙うは、自己ベストの更新だ。

 

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