社説:「鈍足」台風10号 過去にとらわれない備えを
京都新聞 / 2024年9月3日 16時0分
かつてない「鈍足」台風がもたらした脅威を踏まえ、過去の経験にとらわれずに備えと行動を見直したい。
九州に上陸した台風10号は、3日がかりという異例の低速で西日本を進み、広範囲で記録的な雨量をもたらした。
これまでに死者は計7人に上り、愛知県蒲郡市では土砂崩れが発生し、家族3人が亡くなった。傾斜が緩やかだとし、土砂災害警戒区域などに指定されていない地域が崩れた。
7月に土砂災害が発生した米原市伊吹地区では一時、避難指示が出され、東近江市では土砂災害警戒情報が発表された。
近畿で目立った被害はなく、台風は1日に熱帯低気圧に変わったが、地盤が緩んでいる地域では少量の雨で土砂災害を引き起こす危険性が残っている。引き続き警戒が必要だ。
10号は先月22日に日本より南のマリアナ諸島で発生した。当初は北上して本州の太平洋側に接近すると見られていたが、低気圧の一種「寒冷渦」によって、西寄りへと進んだ。高い海面水温によって強まり、「最強クラスに近い」と言われる勢力で西日本を直撃した。
しかも、速度を上げて日本列島を抜ける従来の台風の動きとは明らかに異なった。偏西風の蛇行が小さいために速度が出ず、ジョギング並みの遅さで、ほぼ停滞する状態が続いた。
日本海付近から延びる秋雨前線に向かって湿った空気を送り込み、台風から遠く離れた東海や関東、東北でも豪雨をもたらした。8県で線状降水帯が発生した。温暖化による影響とみられる。
週末と重なり、各地では宿泊施設のキャンセルやイベント中止が相次いだ。交通機関では、JR各社が新幹線の計画運休などを発表した。京都駅では、予約の変更を求める切符売り場に長蛇の列ができた。
今回は台風の進路や被害状況を踏まえ、運休や再開の時期を早めに適宜変更した。交通機関が経験を重ね、客側も冷静に代替え策を取るなど対応が一定浸透したといえよう。被害や混乱の抑制に向け、発表のタイミングや伝え方などで改善に向けて検証してほしい。
気象庁はきのう、今夏の日本の平均気温が平年を1.76度上回ったと発表した。昨年に並び、2年連続で最も暑い夏となった。地球温暖化を背景に、今後も大型台風など異常気象が常態化する恐れも指摘される。
想定外の被害もあり得ることを念頭に、自治体は空振りを恐れず、避難情報を発令するなどの姿勢が重要だ。住民側も国や自治体の情報をこまめに確認することを習慣づけたい。
9月は防災月間。ハザードマップで危険を事前把握し、避難所を再確認するのはもちろん、食料や水の備蓄、防災グッズの点検に取り組む機会としたい。
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