社説:バイデン氏勝利 簡単でない「融和」への道筋

京都新聞 / 2020年11月10日 16時0分

 米大統領選で、民主党のバイデン氏が勝利を確実にした。

 共和党の現職トランプ氏との激しい競り合いは、投票日から4日たって決着の見通しが付いた。

 バイデン氏は勝利演説で「分断ではなく融和を目指す」「いまは米国を癒やす時だ」と述べた。

 「米国第一主義」を掲げて国際協調に背を向け、移民やマイノリティーへの排他的な姿勢を取り続けてきたトランプ氏の路線を大きく転換する決意の表明といえる。

 トランプ政権下で国際秩序は不確実性を増し、多様性の尊重や異なる意見への寛容さなど、米国が体現してきた価値観は傷ついた。

 そうした米国の再生を託したいという有権者の思いが、バイデン氏を押し上げたようにみえる。

 ただ、大統領選を通じて、米国社会の「分断」がいっそう加速している現実も浮かび上がった。

 バイデン氏は史上最高の7400万票を獲得したが、トランプ氏も7千万票を得ている。選挙戦が終わっても、この対立構造は容易には解消されまい。バイデン氏は難しいかじ取りを迫られよう。

 国内の「分断」深刻に

 バイデン氏はトランプ氏が前回大統領選で制したミシガン州などラストベルト(さびた工業地帯)3州を奪還し、勝利につなげた。

 しかし、選挙戦で両氏の主張はすれ違い続けた。政策論争よりも相手への非難を優先したような印象が残る。両氏の支持者から漏れた「口論になるので政治談議もできなかった」「支持表明しただけで友人を失った」などの声は、亀裂の深刻さを表していた。

 トランプ氏は、バイデン氏が有利とされる郵便投票を「不正の温床」と決めつけ、討論会や演説ではバイデン氏に関する真偽不明の攻撃を繰り返した。

 バイデン氏勝利が確実になっても敗北宣言をせず、自らが勝ったと根拠のない主張を続けている。

 そんな選挙戦が象徴する国内の分断は、やはりトランプ氏自身のこれまでの言動に起因しよう。

 対応が後手に回ったコロナ対策では世界最多の感染者を出し、トランプ氏自身も一時、感染した。だが感染が広がっても事態を軽視する発言を繰り返し、結果的に被害を拡大させた。患者や家族から強い批判が上がったのは当然だ。

 移民などへの攻撃的な姿勢を崩さず、白人警官による黒人暴行死事件に端を発した抗議活動に対して治安要員を派遣するなど強硬な態度で臨んだことも、対立を広げる要因になったといえる。

 白人至上主義者や、暴力などが問題化している極右組織を非難せず、国民同士の憎悪が増幅するのを容認するような態度も見せてきた。民主党知事の拉致計画を企てた集団が摘発されるなど、社会には不穏な空気も広がっている。

 米国内では人種や民族だけでなくジェンダー、所得、学歴などあらゆる面で格差が拡大している。

 そうした問題を解消するのでなく、自らに同調する支持者の存在を背景に、対抗勢力を徹底的にののしることで社会の連帯を断ち切ってきたのがトランプ氏だった。

 一方、バイデン氏も勝敗の鍵を握る複数の激戦州で伸び悩んだ。

 格差や差別どう解消

 「反トランプ」で結集したが、国の将来を託せる政策と政治姿勢にインパクトが欠けていると判断した有権者が多かったのだろう。

 民主党内は、中道穏健派と進歩派に勢力が二分されている。就任時に史上最高齢の78歳となるバイデン氏にも「消去法で選ばれた」との冷ややかな見方がある。

 バイデン氏は、日本を含む同盟国を重視する方向性を示し、地球温暖化対策のパリ協定への復帰など、トランプ氏が取ってきた単独主義路線の変更を明言してきた。

 伝統的な米国の価値観を重視する姿勢を示したといえるが、半数近い国民の心はつかめなかった。

 それほど社会の分断は根深い。バイデン氏は「意見の異なる相手を敵のように扱うのはやめよう」と訴えたが、トランプ氏の熱烈な支持層に届くかどうかは不明だ。

 バイデン氏は副大統領に黒人、アジア系、女性で初となるハリス上院議員を起用する。米国社会の多様性を強調し、国民に団結と融和を求める狙いだろう。

 だが、言葉だけで目的を達することはできない。これまで民主、共和の二大政党がすくいきれなかった人々の不満を受けとめ、格差や差別の解消に具体的な政策で応えていく実行力が求められる。

 対米戦略練り直しを

 国際社会は、バイデン氏が次期大統領に就任することに安堵(あんど)しているようだ。バイデン氏側も、各国との関係を再構築し、超大国としての責任を示す必要がある。

 対立する中国には経済・安全保障両面で国際的ルールを守るよう厳しく迫っていくと予想され、日本に対中政策への同調を求める場面が出てくる可能性がある。

 気候変動問題で協力を要請されることもありうる。脱炭素に向けた世界的な取り組みにいかに協力して行くか、日本も問われよう。

 安倍晋三前首相はトランプ氏と個人的な関係を築いたが、菅義偉首相はゼロからの仕切り直しとなる。従来の対米戦略を練り直す必要に迫られるのではないか。

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