1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

社説:黒い雨被爆救済 認定拡大を一刻も早く

京都新聞 / 2021年7月28日 16時5分

 一刻も早い救済につなげねばならない。

 広島に原爆が投下された直後に降った「黒い雨」の健康被害を巡る訴訟で、一審に続いて原告全員を被爆者と認めた広島高裁判決が確定することになった。

 敗訴した国が上告を断念することを菅義偉首相が表明した。原告84人に被爆者健康手帳をすぐに交付するとした。

 さらに、裁判に参加していない同様の被害者を含め、被爆者認定による救済を早急に検討する方針を首相談話で打ち出した。

 終戦から76年、広島の原告のうち15人が提訴後に他界し、多くは80代以上と被害者は高齢になっている。救済の道を開くのが、遅きに失したと言わざるをえない。

 首相は「被爆者援護法の理念に立ち返る」と強調した。その言葉通り、広く被害者の健康や生活を支える枠組み整備を急ぐべきだ。

 高裁判決は、黒い雨に直接打たれた場合に限らず、放射能によって健康被害が生じる可能性があれば被害者と認めるべきと指摘。特定の病気の発症を被爆者認定の要件とした一審判決より認定範囲を広げた。

 国は上告に向け動いていたが、急転換した。被告の広島県と広島市が国に上告断念を求め、判決と世論の矢面に政権が立たされていた。低迷する内閣支持率と次期衆院選に影響するのを恐れ、首相の「政治決断」を演出しようとした狙いが透ける。

 これまで「科学的知見」を理由に被爆者認定を厳格化してきた国に、一、二審判決は被害者救済にこそ生かすべきと迫った。早期救済の願いに背き、控訴して裁判を長期化させた国の責任は重い。

 国は一審敗訴後、黒い雨被害の範囲拡大を視野に入れるとして有識者検討会を設けたが、議論は進んでいない。救済の先延ばしは許されない。

 政府は被爆者認定の基準を見直し、原告以外も同様に救済するとしている。国の指定地域外で遭った長崎の被害者も含めて認定対象を広げるべきだ。

 一方で首相談話は、高裁判決が飲食物を口にした内部被ばくを含め広く認定すべきとしたのを、科学的な線量推計に基づかないのは政府として容認できないとした。福島第1原発事故など他の放射線被害対策に波及することへの予防線とみられる。

 援護制度に一定の線引きは要るが、科学的立証には限界がある。確定した判決に沿い、健康被害の実態に即して救済すべきだ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング