更年期の不調は脳の混乱が引き起こす!?医師に聞く「更年期の原因と治療」
つやプラ / 2020年11月16日 12時0分
先日つやプラ読者を対象に、更年期に関するアンケートを実施したところ「自分は更年期だと思う」「もうすぐ更年期を迎えると思う」と回答した方が65%を超えるという結果になりました。
つやプラ世代はまさに更年期世代と言えそうです。アンケートの「更年期について知りたいこと」で多く挙げられた「更年期の不調の改善方法」や「この時期を上手に乗り切る方法」などについて、日本産科婦人科学会専門医で成城松村クリニック院長の松村圭子先生にお話をお伺いしました。
■更年期に現れる不調は脳の混乱が原因?
ーー更年期に起こる身体の変化について教えてください。また、それに伴う不調とその原因についても教えてください。
「個体の寿命と卵巣の寿命には差があって、卵巣の寿命は約50年。卵巣が先に寿命を迎えるとも言えると思います。卵巣の寿命が閉経ですね。閉経に向けて、急激に卵巣の機能低下が起こり、平均的には40代の後半くらいから女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少します」
「そういった変化が起こる閉経前後の各5年間を更年期と呼び、その症状が重く日常生活に支障がある状態を更年期障害といいます」
「ただ、エストロゲンは一直線に減っていくのではなく、少し持ち直したり、また減少したりと急変動が起こるんです。その急変動が自律神経に影響を及ぼします」
「ホルモンと自律神経はとても密接な関係があり、ホルモンが乱れるのは生理的に必ず起こることなんですが、更年期はその乱れが急激なので、自律神経がびっくりしてしまい、ホットフラッシュのような自律神経系の症状が起こるんです」
「エストロゲンの減少による症状には生理不順や肌の不調などがあります。更年期によく現れるホットフラッシュや動悸、めまい、イライラ、不眠などの不調は、自律神経の乱れが引き起こします」
ーーエストロゲンの分泌が大きく見ると右肩下がりに減っているけれど、右肩下がりの中でも、少し上がったりという波があるイメージでしょうか?
「そうですね、時には大きく上がる時もあります。そうなりつつも最終的には分泌が0に近いところまでいきます。そういう女性ホルモンの波に揺さぶられているのが更年期。エストロゲンが急激に減少するとよく言いますが、実際には急激な変動が起こるんです」
「最初に一気にエストロゲンが減少するので、それに脳が驚いて『エストロゲンを出して』と指令を出します。そうすると卵巣からエストロゲンが分泌されて持ち直します」
「持ち直すと脳は安心して指令を出さなくなるので、卵巣が再度働かなくなってエストロゲンが減少します。すると、また脳がびっくりしてパニックになって指令を出す、という繰り返しが行われているんです」
ーー卵巣だけの問題ではなく、脳が深く関係しているんですね。
「そうなんです。卵巣が勝手にホルモンを出しているのではなくて、脳の指令によって出しているんですね。最終的にはどんなに脳が指令を出しても、卵巣が応えられなくなり、脳は指令を出しっぱなしで諦めてしまいます」
「脳の視床下部という場所が、ホルモン分泌の指令と自律神経のコントロールを行っているので、影響を及ぼし合うんです」
■大幅な生理周期の乱れは更年期のサイン!?
ーー自分が更年期なのかどうか、セルフチェックする方法はありますか?
「更年期のサインはまず生理不順から始まることが多いですね。ですので、生理が順調かどうかが最初のチェックポイントです。色々な不調を挙げて、私は更年期ですか?と来院する方が多いですが、生理が順調であれば、まだ更年期の心配はほぼありません」
ーー生理不順についてですが、どれくらいサイクルが乱れたら更年期の可能性があるのでしょうか。
「これまで生理が順調だった人の場合、1ヶ月生理が飛んだり、生理が終わったと思ったらまたすぐ始まったり、というのが一つの目安になると思います。生理が数日ずれるくらいは、起こりうることなので、気にすることはありません」
ーー基礎体温をつけることもチェックになりますか?
「この年代の女性に限って言えば、基礎体温はあまり意味がないかもしれません。なぜなら、年齢的には排卵していても、していなくても、どちらも正常だからです。基礎体温を測って、排卵がないようですと言われても、年齢的に仕方ないと言わざるを得ないんですね」
「あとは、東京医科歯科大学が作っている『更年期チェック表』というものがあるので、不調を感じている人はチェックしてみるといいと思います」
「これは、受診された方にも問診前に記入してもらうもので、これを見ながら話を聞いて、更年期かどうかチェックをします。診察では、それとともに、他の病気が潜んでいないかを診ていきます」
「更年期の不調と思いきや、甲状腺の異常ということもこの年代の女性はありうるので、その診断をしっかりする必要があるんです」
【更年期チェック表】
〈更年期指数の自己採点の評価法〉
当てはまる症状の程度に◯をつけ、合計点数をもとにチェックをします。複数の症状がある項目は、どれか一つの症状でも強く出ていれば、「強」に◯をしてください。
0〜25点:上手に更年期を過ごしています。これまでの生活態度を続けていいでしょう。
26〜50点:食事、運動などに注意を払い、生活様式なども無理をしないようにしましょう。
51〜65点:医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法を受けた方がいいでしょう。
66〜80点:長期間(半年以上)の計画的な治療が必要でしょう。
81〜100点:各科の精密検査を受け、更年期障害のみである場合は、専門医での長期的な対応が必要でしょう。
ーー生理不順や不調など、色々な更年期のサインがあると思いますが、受診をする目安を教えてください。
「日常生活に支障が出るようであれば、受診して欲しいと思います。気になるほどではないならば、まだ受診しなくてもいいと思います。疲れて多少だるくても、休息や睡眠で回復し、元気になるなら問題ありません」
「更年期障害で治療が必要な人はそれもできなくなって『とにかくなんとかして!』というレベルが多いですね。日常生活に支障が出るというのが、治療が必要な一つのラインと覚えておいてください」
■PMSがひどい人は更年期の不調が出やすい可能性も!
ーー更年期に遺伝はあるのでしょうか?
「直接的に遺伝するということはありませんが、ホルモンの波に揺さぶられやすいかどうか、というのは遺伝といってもいいかもしれません。あと、母親の辛そうなところを見ていて、『自分もそうなるのでは…』と思い込んでしまう人もいますね。不安の先取りですね」
「もう一つ、更年期とPMSとの関連はあると思います。PMSは1ヶ月の中でのホルモンの揺らぎなので、PMSがひどい人はホルモンの波に揺さぶられやすいと言えると思います。更年期は必ず終わりがくるので、人によってはPMSの方が長期に渡ることも」
「PMSを更年期の予行練習と考えて、ホルモンの波をうまく乗りこなす術を見つけられるといいですね」
ーーなるほど。更年期には必ず終わりがあると聞くと、少し気分が楽になりますね。次は、不調が現れた際の治療について教えてください。更年期障害の治療にどのような選択肢があるのでしょうか。
「まずは、血液検査の結果、女性ホルモンの数値が本格的に下がっていたら、それを補うための『ホルモン補充療法』という選択肢があります。ホルモンを少量補充することで乱れていた自律神経が整うので、ホットフラッシュなどはスッと落ち着くことが多いです」
「ホルモン値がまだ下がっていないのに症状が出るという人には、漢方薬の処方やプラセンタ注射を行うことがあります。プラセンタ注射には、自律神経を整える働きや、これから起こるであろうホルモンの乱れに備える効果が期待できます」
「ホルモン補充療法は、乳がんの方、血栓症を起こしやすい方、コントロールされていない高血圧の方など、リスクを伴うので行わない方が良い方もいます。そういったことをチェックした上で、効果が出ると考えられる方にはホルモン補充療法をおすすめしています」
■不調を感じたらサプリや市販薬を試してみても
ーーホルモン補充療法の費用や頻度はどのような感じでしょうか?
「費用は健康保険が適用されるので、それほどかかりません。月に一度、状態を確認して処方します。ホルモン剤には、肌に貼るパッチ剤と塗るジェル剤、内服薬があります」
「ホルモン補充療法は、数ヶ月で終わりにしてしまうとぶり返しやすいので、年単位で考えることが多いですね。症状を見ながら、本人の希望を聞きながら、また続けることで起こるリスクを考えながら決めていきます」
「ホルモン補充療法を5年以上継続すると、乳がんのリスクが若干上がるという研究もありますが、肥満の人やお酒をよく飲む人の乳がんリスクと同程度がそれ以下です。そう考えると、ホルモン補充の影響で起こるリスクはそれほど高くないと言えると思います」
「ホルモン補充療法は、年齢や投与期間に一律の制限はありません。継続することのメリット・デメリットをどう考えていくのかは、個人個人で違うので一概には考えられません。長期にわたって続けたいと希望する方も多いので、その場合は、検診でしっかりチェックしながらやっていきます」
ーー女性ホルモンの波が落ち着いて、体調も落ち着いた段階で、ホルモン補充療法を続けるかやめるかを考えるという感じでしょうか。
「そうです。ホルモン補充療法を続けていると、不調が落ち着いたり、肌や髪の調子が良くなったり、あと骨が脆くなるのを防げたりといったメリットがあります。また、やめるのが不安だから続けたいという人も多いですね」
ーー市販薬やサプリメントを飲んでいる人も多いようですが、それはどうですか。
「更年期向けの女性薬は漢方系が多く、体質に合えば効果を感じられると思います。逆に合わなければ効かないので、誰にでもという訳ではありません」
「大豆イソフラボン系のサプリメントは食品なので、安全に試せると思いますが、効果があるかどうかは飲んでみないとわかりません。女性ホルモンに似た作用で、穏やかに身体に働きかけるのはいいですね」
■更年期を恐れすぎない!気の持ちようも大切です
ーー不調を感じた時に試す分には問題はないということですね。そういったものを試してみて改善されなければ、受診するという順序でも良いのでしょうか。
「はい、それでもいいと思います。あとは、更年期を意識し過ぎないことも大切だと思います。私自身、51歳を迎えたのですが、更年期をほとんど意識しておらず、普段はそういう年頃だということも忘れているくらい。自分も辛い症状に悩まされるんじゃないか?と考えないようにしていますね。現在も不調を感じることはほぼありません」
「更年期の不調は不安やストレスによるところも大きいので、恐れ過ぎないことも大切だと思います」
ーーそろそろ更年期かもと思っていると、なんでもこれは更年期かも!?と思ってしまうことが確かにあります。気の持ちようという面もあるんですね。次回は、更年期の不調を和らげる生活習慣などについてお伺いします。
(つやプラ編集部)
【松村 圭子(まつむら けいこ)先生 プロフィール】
日本産科婦人科学会専門医。成城松村クリニック院長。広島大学医学部卒業。広島大学附属病院などの勤務を経て、現職。月経トラブルから更年期障害まで、女性の一生をサポートする診療を心がけている。西洋医学のほか、漢方薬や各種点滴療法なども取り入れて治療にあたっている。著書に『これってホルモンのしわざだったのね 女性ホルモンと上手に付き合うコツ』(池田書店)などがある。
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